【R E B O R N !】雪の守護者は白兎『 Ⅲ 』 (ページ4)

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九十五片ページ4

「そんなに、心配...なさらなくても...殺さない、ですよ...」

逃げた先は断崖絶壁。道はもうない。これ以上後退は許されない。
男は威嚇するように、最後の力を振り絞って大声を張り上げた。

「う、う、嘘を言うな！ならここまで、俺を追ってこないだろう！？本当の狙いを言え！！」

「嘘では...ありません...。追い詰めれば、追い詰めるほど...旨味を増す、者がいる...。貴方が強いと、きいたから...」

言葉を区切り、襲撃者は再び手を伸ばす。
だらりと脱力していた手のひら。男はそれが自らに向くことを察知し、恐ろしいものを見るように目を見開き、身体を小刻みに揺らす。

ポケットにしまった匣を無意識に握りこんだ。
本当は男は強くない。上に媚びへつらって、自らの価値をアピールするのが上手いだけの、ただの一般人だった。
秘伝の匣も、そう。男は自分の匣を最強だと思ったことがない。生物を模した兵器なだけで、自分が炎を与えたって、鋭いだけの跳ねまわる球にしかなりはしない。
それでも。もう縋るものがない男は、その匣の中で眠る小動物に助けを乞うた。

「くそ！くそ！助けろ！！ポルコスピーノ！！！」

指輪に炎を灯す。紫に濁る炎を、何度もガチャガチャと匣の穴に差し込む。
だが、匣はやはり反応しない。まるで男を拒否するかのように。

「...主人の獲物でないのなら...これ以上、関わる必要も、ありません...」

すっかり興味を失った瞳。男は藻掻くことも忘れ硬直する。その声があまりにも、冷たくて。

「...さようなら」

男の眼前に白い手が迫る。

ガクリと男は力を失い地に倒れた。握りこんでいた匣が転がり落ちる。
気を失ったのだろう。
実際には手を向けられただけで、攻撃などされていないのにもかかわらず。

「...」

襲撃者は無言で男の匣を拾う。
匣に刻まれた模様を見ながら、男の手を取って指輪を抜き去る。
収穫はCランク指輪一つ。あれだけの時間をかけた割に、あまりおいしくない。最低限の結果といったところ。
だが予想外に獲得した匣の方は、属性があっているにもかかわらず開かなかったところを見るに、期待できる。
数多ある匣の中、まだ固定の匣というものがない襲撃者の主人。
それもそのはず。戦闘スタイルに合うかどうか以前に、炎の出力が強すぎて匣を破壊してしまうことすらあった。
だから使い捨てて構わない匣か、安易に手に入る武器匣のみ愛用する。

「...こんにちは」

匣に挨拶をした。きっと貴方を、主人は気に入るだろうから。