111話 ページ16
自己紹介が終わるとマスターはスイッチを押すかのように手をぱん、と一度叩いた。それを受けてアントーニョもローデリヒも先程とは打って変わった真面目な顔に変わる。俺だって例に漏れない。
それじゃあ、とマスターは俺たちを順番に眺めながら言った。
「トーニョには俺の補佐、タチバナちゃんは各種料理の下準備、ローデはスイーツを担当してもらう。指示はまとめて中央のテーブルに置いといたからそれを見て。優先順位も書いてある。」
指で示された先の厨房には大きな銀色の調理台が一つ見えた。その上には乱雑ではあるものの、確かにいくつかの紙の束がある。気になったので中を覗こうと顔を突き出すが、それだけでも相当な広さがあることがわかった。
「お前達の料理の腕は信頼している。きっとオーブンを爆発させたりしないし、真っ黒な炭を生み出して尚平然と差し出すことはないメンツだとわかってる。」
「あれと比べりゃそらそやな。」
「だけど何かトラブルが起きるようなことがあれば遠慮なく言ってくれ。そもそもが急に集まってもらった訳で、はなから難しいことを頼んでいる自覚もある。」
「…まあアーサーさんを超えるようなトラブルは早々ないんじゃないですか。」
「カークランドのそれはいっそ芸術的な部類です。」
真摯なマスターと相対するように全員が思い浮かべた金髪の、料理の域を到底はみ出したあの得体の知れないブツ。俺たちはその時に共通したのだ。さすがにあれ以上の事故にはなり得ないと。そうして共に頷き合う。なんとなく気負う心が僅かに軽くなったように感じた。
それから、衛生に関しての諸注意と道具や食材の位置の確認を行って、最後にマスターから黒いエプロンが手渡される。スタッフ用のカフェエプロンだが、またマスターのセンスが光るような代物だった。あまり身につけたことがないためか好奇心がそわりと疼く。こういうそれっぽい気分になれるアイテムって大事だと思うんだよね。
「今日の全体解散は九時頃だけど、仕事が終わったら是非お前らもパーティを楽しんでくれ。ささやかなお礼だ。報酬の話はまた後片付けの時に。」
気を引き締めてね、とマスターが笑う。
俺たちは全員で顔を見合わせて、それから調理に入っていった。
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時