97話 ページ1
顧客との信頼関係は、俺の仕事にかなり影響するところだ。実際、今まで色々と業務の運営をしてきた中で身に染みて実感している。客層は一般人から大罪人まで様々で、アジアで名が知れるまでは幾度と身元の確認をされた。客だって探偵と思い頼った相手が万が一にも詐欺師であったなら、と思うわけである。最近、新天地に来たためか再び身元を確かめられることがまた増えている。
食器を片付ける俺の横では、アルフレッドが新聞を読んでいた。因みにこれは俺が駅で買ったもの。我が家にテレビなんていうハイテクな機会は無い。
その新聞の一面には最近結婚したこの国の王子の写真がでかでかと載っている。身分違いの恋、なんて見出しの踊る記事の内容は、「身分を隠して王子が街に出ていた頃に運命の出会いを果たした」とかなんとか。相手の女性はしがない一般市民である。まさにシンデレラストーリーと言ったところ。
しかしどうやらアルフレッドが熱心に読んでいるのはその項ではなかったようだが、俺はそれにそこそこの興味と親近感を覚えた。
(俺もきっと、こいつからしたなら騙しているに相違無いな。)
ソファに座り目を動かす男のことを、俺は少し知っている。
アーサーさんの従兄弟であり、一軒家に住む彼の両親はとある企業を経営する立場にある。なんならアーサーさんだって今は軍警だが、そのバックには昔からの家柄があった。言うなれば貴族の出だ。その血筋は由緒正しくこの地に根ざす。まあ、要するに金持ちで地位も高いのだ、彼は。
それを調べたのは彼がここへ来るようになってすぐのことである。興味と警戒と、何かあった時のために。俺は未成年のアルフレッドより年上で、そういう責任があるんだと勝手に考えていた。アルフレッドだってきっとそれは理解しているだろう。
そう、一方的に俺はこいつを知っている。
「ねえ、難病の少女が助かった記事が載ってる……多額の寄付がいきなり来たからだって。」
「へえ、良かったな。」
「この女の子、見覚えがある気がするんだけど?」
知ったことか、とアルフレッドの疑念を一蹴する。
小さな記事のその少女の横には兄とその祖父の姿があった。
頭を捻る男から興味を食器棚に移す。
俺はきっとアルフレッドに何かを打ち明けることは無い。寄付金の出処も、何者なのかも。彼が知るのは俺には兄貴が居ること、それだけなのだ。
それにもし、俺の名前すら偽物だと知らせたら、こいつはどんな顔をするんだろうか。
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時