39話 ページ41
あれから、俺は依頼人の車でもう20分かけて事務所まで帰ることになった。
アルフレッドの目には行きの時にあった不信感は既に消えていて、俺たちはほどほどに会話を楽しみながら、ほんの少し音楽に耳を傾けて時間を過ごした。
「取り敢えず支払いは後日でもいいかい?ちょっと手持ちが今危うくてさ。」
「構わないぜ、この請求書にサインだけしてってくれれば。」
「OK、ペンを貸してくれ。」
アルフレッドは事務所着くと、すぐにそう切り出して気前よくペンを握ってくれた。
俺はすぐに報酬の話を持ち出すやつは嫌いじゃないんだ。物事は全てが等価交換。若いなりにしっかりしている男だ。気分が良かったのと内容も内容だったし、多少割引にしといてやることにする。
アルフレッドがさらさらっと書き上げたサインを確認して、紙を受け取った。金は後日、銀行屋を通じて俺に支払われる約束だ。
これでこの件はひとまず終了、晴れて解散となる。
「君に頼んで良かったよ。これで安心して眠れる。」
「そりゃどーも。」
「君は素っ気ないなあ。もっと別れを惜しんでもいいんじゃないのかい?」
「客なんて所詮客だしな。」
「Boooo!」
ソファに座って机に向かった俺に文句があるのか、その向こう側ではアルフレッドが頬を膨らませて口を尖らせていた。
なんなんだこいつは、ガキかよ。ガキだよ。
山積みの本に手を伸ばそうとすると、それを阻害するかのごとく机を叩くその金髪は、どうしても納得いかないらしい。
「俺は!本気で君をすごい人だと思ったんだよ。それに金持ちってわかってた癖に対等でいてくれたしね。」
「…あのくらいならガキでもわかるって言っただろ。それと俺はあくまで依頼人と探偵の関係性しか持たないのがポリシーだ。」
「ぐぬぬ……」
「いいから早く帰れよ…」
アルフレッドが悔しげに眉根を寄せる。
随分と懐かれてしまった、どうしよう。もうこうなったら意地の張り合いをするしかないのか。
するとその時、アルフレッドの方から「ピリリリ」と音が鳴った。それは携帯電話の音で。
どうやら家族からのものだったらしく、電話に出るなりアルフレッドはそれはそれは嫌そうな顔をして誰かと話している。
いくつか言葉を交わした後、長いため息をついてアルフレッドは言った。
「今日は仕方なく帰るけど、次会ったらこうはいかないんだからな!」
そんな捨て台詞と共に彼は帰って行った。ポツリと残された俺。
一体なんだったんだあれは。
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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時