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40話 ページ42

ああ、やっと。



「静かになったなあ…」



かちゃり。
紅茶の入ったティーカップを口元から離し、そっとソーサーの上へと戻す。ソファに腰掛けながら今読んでいる本は、数年前に書かれた有名なミステリーだ。ページをめくって読み進めていく。

アルフレッドが帰ってから数時間後。
既に外はもう夜であり、夕食も済ませた時刻だ。1日といいうものはあっという間である。

にしても初仕事はとてもとても簡単なものだった。
露骨とすら思える状況の証拠を残していたから、ついあの青年が何かを企んでいるのかと邪推してしまうほどだったが。見当違いも甚だしいか。
彼の純粋で嘘をつかない瞳は見ていてあまりいい気分ではない。あんなに褒めていたけれど、俺は探偵なのだ。事実はどうであれ客の依頼を忠実に遂行することに意味がある。
今回重きを置いたのは「幽霊の正体」だ。要するに「何も無い」ことを証明するだけでよかった。実に簡単なこと。

俺は頭が良い訳じゃないからな。あくまで悪知恵が働く、それだけなんだ。

パタリと読んでいた本を閉じた。
今日はここまで、残りはまた明日。山積みの本の一番上にそっとそれを置く。
息抜きとして読書ほど最適なものは無いと思っている。俺は本が好きだった。

渡欧前の案件の後処理が微妙に残っていた。脳内に住む天使と悪魔のような2人の俺が囁いている。だからあの時権利も全部棄てて逃げるべきだったのに。そうだそうだ。

うるさいなあ、わかってる。でも中途半端にしておくにはあまりにも責任がありすぎたんだよ。
あの野郎がまだ諦めていないなら、この仕事はまだ契約続行中なわけだし。机の上に置かれた数枚の書類を指でつついた。
前の仕事用の振込先、今頃きっとパンクするほど金が入っているんだろう。俺を戻したがっている、あいつは。自惚れではなくそう理解する。どんな手も厭わないなら、金を払って解決するなら俺もきっとそうするしね。

畜生契約書が2枚あるのがいけないんだ。いくら俺が契約書破いたって、あいつが持ってる俺のサイン入りの方をどうにかしなきゃ終わらない。ああ面倒くさい。

きっとあの日交わした契約は血の契約だった。あの男は人を殺すには容赦がない男で、今俺が生かされているのはきっと、そういうこと。

ため息しか出ない。



「……寝よう」



あまり考えすぎても意味の無い事だった。
ならば俺は布団にこもる。一日が終わる前に。

ああ今日は妙に疲れたから、ぐっすり眠れることだろう。

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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時

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