13話 ページ15
「羽振りがいいな、兄ちゃん!」
「おうともよ!!じゃんじゃん飲むっすよー!」
賑わう店内。響く笑い声。たまの罵声。グラスとグラスのぶつかる音。目の前には食い物が山になる。
適当に見つけた酒場に入ると、まだ夜は来ていないとはいえ既に酔っ払ったやつらが陽気に酒を交わしていた。店長に暖かく迎えられ、カウンター席に座った俺もその輪の中に入る。
カジノでの儲けはそれはそれは大量にあったから、昨日の俺では考えつかないような料理の数々を注文して酒を飲んだ。なんせ腹が減っていた。この街は酒も料理も抜群に美味いから、手が止まることはない。
時折酒を店内全員に奢るなんてこともしながらの大騒ぎ。ノリのいい客は大歓迎だぜ、なんて隣の席のおっさんと肩を組んだりもした。
店内には年齢も性別も人種も関係なくて、みんなで盃を交わす。店長は「このろくでなし共め」と言って大きく笑った。
「んで?そんなに金使って兄ちゃん大丈夫なのか?」
「まあ俺たちはおめーさんに使ってもらった方が断然嬉しいんだがな!」
「いいんです。金は使わにゃ損なんすから!!」
「その息だぜ!お前らバンバン酒頼めよ!!今日は母ちゃんに怒鳴られる心配しなくて済むぞー!」
俺を取り囲んで陽気なおっさんたちが手を上げる。もうすっかり出来上がってしまっているが、これは果たしてちゃんと帰れるのだろうか?送りまではしないからな、俺。
とにかくこの人々は俺の奢りで酒を飲むつもりらしい。俺もそのつもりだから問題はないが、ここまで乗り気だとこちらも少し驚いてしまう。さすが酒の力だ。今日ばかりは生まれ持った自分の技巧に感謝しかない。
追加で酒を頼めば、それを皮切りに他の奴らも次々注文していった。
結局、深夜になるまで飲み明かした俺は、ガンガンと揺れる度に痛む頭を引きずって店を出ることになる。騒ぎの余韻は抜け切らずに俺の頭痛を悪化させたが、最後に店を出る時の客たちの笑顔を思い出すと、何故だか怒りは湧いてこなかった。
帰る場所はないし今の時間に宿を取るとなると程度が知れている。そんな危険を侵すよりはまだ路地裏で寝た方がマシだった。連れ込み宿なんかに行ってみろ。翌朝には荷物が空になっていること請け合いだ。
強烈な眠気に襲われて、大きなあくびを1つした。
今日はもう限界が近い。さっさと眠りたいという思いが強く俺を支配する。
だから背後から誰かがこちらを見ていたことには、俺はついぞ気づけなかった。
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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時