▽ ページ21
「佐藤くんとは……あの、えっと、」
「あっ！ 怒ってるとか責めようとかそんなつもりじゃなくて！ 確かめたかっただけなんです」
「確かめる？」
クーラーボックスを挟んでしゃがみ込んだまま、寒川さんがサラサラの髪を揺らして慌ててそう否定した。てっきり、「佐藤くんに近付かないで」といった内容の事を言われるんだと覚悟していた私はその言葉に首を傾げる。
「たまに佐藤くんがどこか遠くを見つめてる時があって。そういう時に視線を辿るといつも葉月さんがいるんです」
「私……？」
「はい。体育の時とか、廊下で話してる時とか」
頷いた寒川さんは、少し寂しそうな表情を浮かべていた。
「私、佐藤くんに告白した事があるんですけど。『好きな人がいるから』って断られたんです。でも佐藤くんってあんまり女子と話さないし、断る為の口実かなって思って」
「確かに……？」
「そう思ってずっと佐藤くんのこと見てたら、たまに佐藤くんがぼんやりしてる時がある事に気付いて。そういう時、いつも葉月さんの事見てるんです」
眉を下げて笑いながらそう言って、「あれ、私気持ち悪いですね？」と寒川さんがぽすりと口元に手を当てた。その様子がとてもかわいくて、静かに私は首を振る。
「葉月さんと佐藤くん、たまに廊下で話したりしてますよね。一緒に電車乗ってたり」
「……佐藤くんとは、幼馴染で」
「幼馴染！」
「はい。学校では隠してるんですけど……」
「そうだったんですね。……ごめんなさい、突き止めちゃった」
「突き止められちゃいました」
目を丸くした寒川さんに、私は力なく笑う。
恋する女の子には敵わない。本当に勝利のこと好きなんだって伝わってきて、今日まで色々な事を曖昧にしてきた私が嫌になった。
「葉月さんは、佐藤くんのことは『幼馴染』なだけですか？」
「……」
「まだチャンスあるかも、なんて期待しちゃいそうになるから、諦めさせてほしくて」
伏し目がちにそう言った寒川さんに、ふらふら揺れていた心が固まっていく。
ずっと、『幼馴染だから』って言い聞かせてきたけれど。
君の隣は譲れないんだ。
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