宵の花−千side ページ9
−千side−
目線を下に向けていたAちゃんに花火が始まったことを告げると、色とりどりに咲く花を見て楽しげに笑みを零す。
夜空に咲く火の花と同じ色に染まるキミが咲かせる花が綺麗で。
花火に夢中になって溢れ出しているキミの笑顔がとても綺麗で可愛らしくて。
あぁ、僕はこの笑顔に恋したんだ。
と、きっとAちゃんは覚えていない数年前のことを思い出しながらその横顔に見惚れていると、「綺麗だね」って花火を見上げながら呟くから、僕は無意識に「そうやね」と答えていた。
覚えてなくても言うことは変わらんのやね。
『千にぃ、早く!花火始まっちゃう!』
「ちょっと待ちって。人混みの中急いだら危ないから。」
浴衣に下駄でどうしてそんなに早く歩けるのか、人と人の間を器用にすり抜けて少しずつ小さくなっていくAちゃんとはぐれないように、必死になって見え隠れする背中を追いかける。
『あっ!』
「っと。もー、急に止まったら危ないやろ。」
立ち止まった原因は何だと視線を追うと、丁度花火が打ち上がった瞬間だった。
次々に現れるカラフルな花火に気を取られているAちゃんは、ここが道の真ん中であることを忘れているようだ。
「ほら、ここじゃ通行の邪魔になるから。行くよ。」
『う、うん。』
浴衣から覗く僕よりも一回り小さな手を引いて、当初の目的の場所までやって来た。
昔からあまり人の来ないこの場所は秘密の穴場なのだ。
ただ浴衣と下駄でここまで来たのは初めてで、少し足場の悪さが気になる。
「ここら辺小石とか結構転がってるから、足元気ぃつけてな。」
『うん、ありがとう。』
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作者名:夏霞 | 作成日時:2019年1月27日 20時