10話 ページ10
Aside
「A様、ご夕食は如何なさいますか？」
メイドの居なくなった部屋に戻って中々進まない読みかけの本に目を落としていると、コンコン、と控えめにノックの音がして直ぐに幹部棟のメイドの声が聞こえてくる。
パッと顔を上げると窓の外は暗くなってきていて、ただ集中出来ないまま本を読んでいただけなのに、時間が過ぎるのは早いものだと実感する。
「いつもありがとうございます。今日も部屋で食べたいのですが……」
「はい、承知致しました。直ぐに夕食を持って参ります。少々お待ちくださいませ」
「……ありがとうございます」
椅子に座ったまま扉の前に居るであろうメイドと会話をし終わえ、ふう、と一息つく。幹部の婚約者である私は、何故か総統であるグルッペンの提案で幹部棟の食堂で食事を取ることを許可されている。朝食と夕食は毎日幹部全員で食べるという決まりから、幹部全員が揃った中1人混ざって食べなければいけないのだ。その上、今日のようにレイカが城へ遊びに来ている時は高確率で夕食を一緒に取っていることが多いので正直食堂には行きたくない。レイカが居なくても、ショッピにもその他の幹部にも会いたくないから毎日部屋で食事を取っているのだ。
それに、今日は特に。
あの図書室での一件の後、今にも泣き出しそうな私を心配してくれたエーミールがお茶に誘ってくれた。けれど、私はあれ以上幹部の誰かと一緒に時間を過ごすのは嫌で、断って戻ってきてしまったのだ。エーミールには申し訳ないことをしてしまった。
だけど、もしあれ以上エーミールと居たら、
きっと私は余計な事まで口走っていただろうから。
……なんで、こんなに私は弱いのかな。
紙面上では婚約者。だけど、実際彼の隣に立つのは私ではない。そんなこともうずっと分かっていたはずなのに、その姿を目の当たりにすればやっぱり辛い。
なんで、あの人を好きになってしまったんだろう。
部屋に戻ってから、もう何度目かは分からない。ふと、訓練所や図書室での2人の姿を思い浮かべてはため息をつく。
窓の外のすっかり碧色に染まった空を見上げる。空には雲ひとつ見えなく、キラキラと小さな星が幾つも輝いている。
「……綺麗、だなあ」
ぽろり。
冷たい雫が頬を伝って、流れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1513人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
秋人(プロフ) - パスワード掛けても公開して下さってありがとう御座います。本当に好きなお話なのでうれしいです。作者様に無理のないように過ごして下さい。 (2022年3月12日 23時) (
レス) id: 3a6567d6ac (このIDを非表示/違反報告)
よにん - 前に見かけてまた見たいと思っていてまた見れて嬉しいです。応援してます！ (2020年6月24日 15時) (レス) id: 3491a11aac (このIDを非表示/違反報告)
鬼雷 - 初コメ失礼します!少し前に見つけてひっそりと応援しておりました!ストーリーが凄く好きで先が凄く気になります!作者様のペースで頑張ってください!更新されるのを楽しみにしてます!完結まで追いかけます!頑張ってください! (2020年6月24日 0時) (レス) id: 15f01a3427 (このIDを非表示/違反報告)
りんご飴(プロフ) - 茄子さん» 教えてくださりありがとうございます！！これからも頑張ってください！！他はもう素敵な話ばかりで読み入ります！もしもあったら聞かせてもらいます…！ (2020年6月17日 19時) (レス) id: c59a6d75f0 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - りんご飴さん» コメントありがとうございます！ありがとうございます！泣きます(；；) 手首を掴んだのはsypさんです！いえいえ、分かりづらかったかもしれません……。ごめんなさい(；；) 分からないところがあればジャンジャン聞いちゃってください！ありがとうございました(^_^) (2020年6月16日 20時) (レス) id: 8809630e87 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：茄子 | 作成日時：2020年4月6日 21時
