17話 ページ17
Aside
バシャリ。
そんな音が耳元で聞こえた。
「え……?」
誰かの、困惑した声が聞こえた。その声は酷く聞き覚えがあったが、今は、誰の声なのかはわからなかった。わかりたくなかった。
ぽた、ぽたと朝、ルイがセットしてくれた髪から水が滴り落ちる。顔や腕から流れる水が冷たくて、今の冷静でない頭を冷やすのには丁度良いのかもしれない。
「は、なに、して……」
正面に立っているオスマンが信じられないと言うように大きく目を見開いた。初めて見る、彼の深い緑色の瞳はとても綺麗だ。
未だに床に座り込んだままのレイカは、さっきまでの勝ち誇ったような顔が嘘のよう、唖然と、意味がわからない、と言うようにあんぐりと口を開けてこちらを見ている。
何処ぞのご令嬢が大口開けて居るなんて、はしたないですよ。……なんてね、
「これで、よろしいでしょうか?グルッペン様」
長い食卓の、所謂お誕生日席に立ち続けるグルッペンに視線を向けると、彼も同様に、驚いたように目を見開いていた。勿論、彼の傍に立つトントンやチラホラと視界に入る幹部の皆さんも、皆。
「このドレスは、ショッピ様から頂いた物です。ルイに聞けばわかると思いますが、それはそれは大切にしていました」
唯一頂いた物ですもの、なんて嫌味を付け足しておけば、ショッピさんがビクリと肩を揺らしたのが視界に入っておずともわかる。
そう、これは唯一、彼から貰ったもの。
「私の発言にも、レイカさんの発言にも証拠がない今、これでおあいこでしょう……?」
そう言ってニコリと笑ってやれば、レイカはあからさまに嫌な顔をする。
その顔を、誰かに見られてしまえばいいのに。
「……ふ、はっはっは!」
彼女の嘘がバレてしまえばいいなんてくだらないことを考えていると、グルッペンが大声で笑い出す。
突然のことに驚くことしか出来ない私を余所に、オスマンやトントンが呆れたようにため息をついた。
「A嬢」
「は、はい」
一通り笑って満足したのか、はあ、と一息ついたグルッペンは私の瞳をじっと見つめて、名前を呼んだ。さっきの無邪気な笑顔は何処へ行ったのか、私を見つめる彼の表情は真剣そのもの。余りの温度差についていけない。
真っ赤に燃え上がるルビーのように輝く瞳から目をそらす事が出来ない。
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秋人(プロフ) - パスワード掛けても公開して下さってありがとう御座います。本当に好きなお話なのでうれしいです。作者様に無理のないように過ごして下さい。 (2022年3月12日 23時) (レス) id: 3a6567d6ac (このIDを非表示/違反報告)
よにん - 前に見かけてまた見たいと思っていてまた見れて嬉しいです。応援してます! (2020年6月24日 15時) (レス) id: 3491a11aac (このIDを非表示/違反報告)
鬼雷 - 初コメ失礼します!少し前に見つけてひっそりと応援しておりました!ストーリーが凄く好きで先が凄く気になります!作者様のペースで頑張ってください!更新されるのを楽しみにしてます!完結まで追いかけます!頑張ってください! (2020年6月24日 0時) (レス) id: 15f01a3427 (このIDを非表示/違反報告)
りんご飴(プロフ) - 茄子さん» 教えてくださりありがとうございます!!これからも頑張ってください!!他はもう素敵な話ばかりで読み入ります!もしもあったら聞かせてもらいます…! (2020年6月17日 19時) (レス) id: c59a6d75f0 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - りんご飴さん» コメントありがとうございます!ありがとうございます!泣きます(;;) 手首を掴んだのはsypさんです!いえいえ、分かりづらかったかもしれません……。ごめんなさい(;;) 分からないところがあればジャンジャン聞いちゃってください!ありがとうございました(^_^) (2020年6月16日 20時) (レス) id: 8809630e87 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:茄子 | 作成日時:2020年4月6日 21時