ルームシェア【志麻】 (ページ2)

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その時には私の中ではもう、彼と別れていた。
｢別れよう｣、｢好きな人ができた｣と言われるのはただの儀式に過ぎない。
だから今日、別れを切り出された時も、悲しさはなかった。

彼はしばらく頭を下げたままだった。
私はため息をつき、こう言った。

『分かったから、もう顔上げなよ』

｢本当に申し訳ない。俺が全部悪い。
だから、もしAが俺のこと殴りたいなら、殴ってもらって構わない。｣

またこの言葉だ、と私は思った。
別れ話の時には必ずこう言われるので、私はうんざりしていた。
そして、なぜ男は、女は殴れば気が済むと思っているのだろうと不思議に思った。

私は立ち上がり、彼の腕を掴んだ。

『ちょっと立って』

｢お、おう｣

彼は戸惑いつつも、その場に立った。
私は彼の目をしっかりと見つめた。

『じゃあ、いくよ』

｢.....うん｣

そして、私は拳を握り締めた。

彼氏が浮気をする→それに私が気づく→でも確証がないので彼氏を一応信じる→でも別れを切り出される→彼氏を殴って終わり。

このパターンが私の全ての恋愛に共通する事柄だ。

ただ、5人が5人とも、私が顔を殴ると勘違いしていた。
今日別れた彼も、顔に必要以上に力が入っていた。

しかし、私は彼のみぞおちを突き上げるように殴った。
すると、相手は｢ゴボッ、グヘッ｣と呼吸困難に陥り、｢なんで...みぞおちなんだよ｣という言葉とともにうずくまった。
私はそれを見届け、何も言わずにその場を去った。
これが形式上の私の別れの儀式だ。

カフェで5人目の悶絶シーンを見届けたあと、私は夜道を淡々と進み、私の最も落ち着く場所である2LDKの自宅に帰ってきた。
リビングに入り、ソファに飛び込むと、心地よい弾力が私を包み込んでくれた。
この瞬間が私にとって至福の時だ。