第３９話 ページ41
ある日の、草木も寝静まった深夜のこと。
「はっ、はっ」
男が、森の中を一心不乱に走っている。目をかっ開いて、涙をボロボロと零しながら。
ーー速く、速く逃げなければ。
「はっ、はっ」
男はしきりに後ろを振り返る。視界に入るのは、全てを飲み込もうとするかのような、暗い暗い闇だけだった。
人の姿は、見えない。
ーー速く、速く速く！
だが、男は足を止めなかった。男はわかっているのだ。
"ヤツ"が、そこにいることを。
「はっ、はっ……あ、れ？」
無我夢中で走っていると、男の身体が一瞬にして濡れた。
…土砂降りの雨が、降ってきたのだ。
さっきまでは空に雲がなく、星や月が見えていたのに。
不自然に突然降ってきた雨。……まるで、誰かに命令されたかのように。
「…あ、あぁぁ、」
男は気付いた。この雨が、何を意味するのかを。
声が、身体が、震える。必死に足を動かすが、男には進んでいるようには到底思えなかった。
何故なら男がいるのは、まだ、"ヤツ"の狩り場の範囲の中だ。
『……追いかけっこは、おしまいだ』
耳に、"ヤツ"の息がかかる。
首元に鋭く尖った爪が当てられ、タラリと血が流れた。
「あ、あああ…っ」
男は恐怖で言葉が震えた。
それを聞いて、"ヤツ"がくすりと笑う。
『怖いか…？なら、放してやろう』
"ヤツ"はそう言うと、トンッ、と男の背を押した。
そしてーー
『…ゼブライカ、〈かみなり〉』
Aが言葉を言い終わった瞬間、
男の姿は、どこにもなかった。
・
『…ちょっと強すぎたか？』
ゼブライカの電撃で跡形もなくなった男を見て、Aが呟く。
『〈あまごい〉しない方がよかったかな。まあでも、した方が〈かみなり〉打ちやすいからいいか。
…ったく、逃げなければさっさと終わったものを…』
《ブルル…》
『お前もこんな夜中に付き合わせて悪かったな。眠たいだろ？今戻してやるからな』
ゼブライカの背を撫でながらAがそう言うと、嫌がるかのようにゼブライカは鼻面でAの脇腹をつついた。
《ブルルッ！》
『ん？何だ、里まで乗せてくれるのか？はは、それはありがたい。ならお言葉に甘えて乗せてもらおう』
ゼブライカはAが乗りやすいように足を少し畳む。
『じゃあ、よろしくな』
《ヒヒーンッ！》
そしてひらりとAが跨がると、大きく嘶いて闇の中を駆け出した。
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海歌 - 今度、主人公の妹も入れた小説作ってもいいですか？ (2017年2月6日 15時) (
レス) id: 9e7081a8f5 (このIDを非表示/違反報告)
名無しのポケもん好き - びっくりするくらい面白い (2016年12月23日 21時) (レス) id: d81526141d (このIDを非表示/違反報告)
ナイロン - 続き待ってました!!これからも頑張ってください!! (2016年7月4日 21時) (レス) id: 6f2be02f91 (このIDを非表示/違反報告)
キヌカ - この小説大好きです！【眠れる獅子】が気になります。頑張って下さい！ (2016年6月21日 9時) (レス) id: 0257f3d498 (このIDを非表示/違反報告)
ナイロン - めっちゃくちゃ面白いです!!続き期待してます!! (2016年6月18日 20時) (レス) id: 6f2be02f91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白蛇 | 作成日時：2016年3月12日 20時
