7 ページ8
｢あの｣
｢どうかした？芥川くん｣
食事後、仕事まで時間が余ったと言った彼にじゃあ、もうちょっとここにいたらどう？と提案した。
そうしてお皿を洗いながら、控えめに話しかけてきた彼に背中越しに答える。
けれど芥川くんが返事をする様子はない。完全に口を噤んでしまった。最近になって少しずつだけど、彼の表情も読み取れるようになってきた。
顔に出ないだけで、思っていたよりも感情豊かな子だって分かってきた。
冷酷って言われてるけど不器用なだけで礼儀正しいし、尊敬してくれる部下も持っているみたい。私はみんなとはちょっと違うから、芥川くんとかが所属する所のことはよく知らないけど。
｢なぁに？｣
お皿を拭き終えて振り返る。悪戯っぽく問いかけると、視線をずらした芥川くんが気まずそうに口を開いた。
｢これは……僕が踏み込んで良いことなのか、定かではありませぬ故、聞くのは躊躇されます｣
｢すっごく回りくどかったけど、聞く気がないのはよーく分かったよ｣
｢あ……ですが、その｣
｢ふふ、別に怒ったわけじゃないよ。ちょっとからかっただけ｣
珍しく焦った様子の芥川くんに、思わず口元が緩んでしまった。いけない。仕事中だし、あんまり気を緩めちゃダメだ。
一定の距離を取って、正しく接する。誰にとっても優しくて無害なパティシエ。
｢……中原さんと話す時や太宰さんの話をする時、貴女は酷く寂しそうな顔をする｣
どくん、と心臓が跳ねる。
……彼はどこまで知っているの？昔の話を知っている人なんて、ボスと中原さんとあとは数人のはず。
色んな考えと感情がぐちゃぐちゃになる。
慌てて口元を手のひらで覆う。強烈な吐き気が込み上げてきた。
｢……芥川くん｣
｢はい｣
｢……ごめん、気付かないで。それ以上は踏み込んで欲しくない｣
芥川くんは何も言わない。無言の肯定と受け取って良いんだろう。いつもの控えめなお礼と共に席を立つ音が聞こえる。
……今日はもう休もう。へなへなと床に座り込み、額に手を当てる。
動揺しすぎだな……私。
でも、昔のことは封印していたい。何も思い出したくはない。もう誰も失いたくはないし、誰かの悲しい顔なんて見たくない。
誰かの笑顔のために仕事がしたかった。……でも、私は結局、逃げているだけだ。
｢……どうしたらいいの、織田作｣
ポツリと呟いた言葉は、誰にも拾われることはなく、空気と共に溶けていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さくら餅(プロフ) - 紅玉さん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました！無事完結させることができて心底ほっとしております。私は貴方様のコメントにギュンギュンしました！笑本当にありがとうございました！！ (2021年2月7日 15時) (
レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
紅玉 - 完結おめでとうございます！！！！尊いのと可愛いので私はギュンギュンしまくってました！！！！(ギュンギュンとはキュンキュンの進化系です！！！！) (2021年2月7日 12時) (レス) id: 835185f078 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 人虎に会いたい…。 ｂｙ芥川 (2020年12月1日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 厳しいわ。 (2020年12月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
さくら餅(プロフ) - ☆天香☆さん» ありがとうございます！！すっごく嬉しいです！文ストはキャラクターひとりひとりが個性的で大好きなので、つい絡ませちゃいます笑コメントありがとうございました！！ (2020年3月12日 21時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さくら餅 | 作成日時：2019年10月4日 16時
