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時刻は午後八時過ぎ。今、私の周りを双黒二人が花火を両手に走り回っている。
隣に芥川くん、少し離れたところに梶井さんに樋口ちゃん、森さんとエリス嬢の姿もある。
思っていたよりも騒がしくて、さっきまで芥川くんとどう接すればいいのかずっと考えていたのになんだか拍子抜けだ。
「あんまり走ると危ないですよー」
さすがにマフィアの敷地内で花火をするのは控えた方がいいとの事で、海辺にやって来ている。
潮の匂いと波の音。夜の海は黒くて呑み込まれそうで不安になるけれど、花火の光がそんな不安をそっと照らして和らげてくれている。
「六月に花火する人なんているのかな。ね?」
「僕は……花火自体、初めてです」
少し気恥しそうに手元の花火をひらひらとさせる彼にそうなんだ!と返事をする。
「おっきな花火は見た事ある?花火大会の花火!」
「いいえ」
「そっかー。じゃあ、八月あたりに花火大会行けるといいね!」
こんな夜は、不思議と普段言えない言葉までふわりと浮かんでくる。花火が魔法の杖みたいに見えて、まるでおとぎ話の世界だ。
「火、付けたら?」
芥川くんは小さく頷く。不慣れながらも手元の花火に灯りが付いた。
「綺麗……」
赤、青、黄色……次々変わっていく色が輝いて、煌めいて、私たちを照らす。
「Aー!!リンタロウが気持ち悪いー!!Aと花火したい!!」
「はーい!ごめんね、ちょっと行ってくる……わっ」
不意に手首を掴まれて、引っ張られた。びっくりして振り向くと、目が合ってパッと手を離された。当の本人も何故か困惑している。
後ろからエリス嬢の声が聞こえるけれど、どこか遠く感じる。
「……すみません」
二、三回咳をしたあとに謝られてさっきまでのふわっとした空気が一気に落ち着いていく。
「うん?大丈夫だよ。行ってくるね」
掴まれた手首が熱を帯びている。あのまま……離さなくても良かったのにな。
そんな考えが頭をよぎったことに気が付いて、慌てて首を横に振った。
「エリス嬢!!」
まだ。
まだ……この気持ちには、気付かないふり。
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さくら餅(プロフ) - 紅玉さん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!無事完結させることができて心底ほっとしております。私は貴方様のコメントにギュンギュンしました!笑本当にありがとうございました!! (2021年2月7日 15時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
紅玉 - 完結おめでとうございます!!!!尊いのと可愛いので私はギュンギュンしまくってました!!!!(ギュンギュンとはキュンキュンの進化系です!!!!) (2021年2月7日 12時) (レス) id: 835185f078 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 人虎に会いたい…。 by芥川 (2020年12月1日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 厳しいわ。 (2020年12月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
さくら餅(プロフ) - ☆天香☆さん» ありがとうございます!!すっごく嬉しいです!文ストはキャラクターひとりひとりが個性的で大好きなので、つい絡ませちゃいます笑コメントありがとうございました!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくら餅 | 作成日時:2019年10月4日 16時