13 〜芥川龍之介side〜 ページ14
「好きだった人がいたの」
寂しそうに呟いた彼女の声は微かに震えていた。
「……死んじゃったんだけどね」
緘黙したままの自分を見て、彼女はまた言葉を続ける。悲愴に濡れた瞳がゆらゆらと揺れていて思わず手を伸ばそうとしてしまった。
はっと我に返りふいと顔を逸らす。視線を彷徨わせ何を言うべきか迷う。
僕は太宰さんや中也さんのように、彼女と対等ではない。何を抱え何を思うのかも分からない。それ故に彼らが羨ましい。
話を聞いて寄り添える彼らに僕など遠く及ばない。最初から立っている場所が違うのだから。
「ずっと彼は、海の見える場所で紙とペンだけ持って小説を書きたいって、口にしてたの」
「その時は着いてきてくれるか……?って、彼は私にそう聞いた。勿論受諾したけど、結局それは叶わなかった」
彼女の話は当然のこと。それは叶うはずもない。彼は死んでしまったのだ。一途に想い続けた彼女を遺して。
「その……名は、なんと」
途切れ途切れの言葉に応えようと彼女は苦しそうに目を細め、絞り出すように声を出す。
「織田作……織田作之助」
聞き覚えのある名だった。太宰さんが唯一認め、心を許し共に時を過ごせる、今は亡き友人の名だった。
「何故」
動揺して勝手に口をついて出た言葉。一度口に出してしまえば、後は芋づる式にずるずると引き出されていく。
「何故、貴女も彼を慕うのですか」
「え?」
「下っ端の構成員だと聞きました。強さがあるようには見えませぬ。それなのに何故……何故」
怒り。羨望。嫉妬。
酷く醜く混ざる感情が心の奥底で燻っている。
「太宰さんも貴女も……そんなに僕では及ばないのでしょうか」
「えっと……何の話?」
不安げに向けられた視線。その瞳の色が驚く程に美しく、吸い込まれそうだった。
記憶を辿るようにして、彼女の言葉や仕草や表情が瞼の裏に映された。
「それはねぇ、芥川くん」
不意に聞き慣れた声がした。叩かれた肩越しに振り返る。
「それは恋というのだよ」
ニヤリと妖しく笑った太宰さんに、僕は二、三度瞬きを繰り返した。
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さくら餅(プロフ) - 紅玉さん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!無事完結させることができて心底ほっとしております。私は貴方様のコメントにギュンギュンしました!笑本当にありがとうございました!! (2021年2月7日 15時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
紅玉 - 完結おめでとうございます!!!!尊いのと可愛いので私はギュンギュンしまくってました!!!!(ギュンギュンとはキュンキュンの進化系です!!!!) (2021年2月7日 12時) (レス) id: 835185f078 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 人虎に会いたい…。 by芥川 (2020年12月1日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 厳しいわ。 (2020年12月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
さくら餅(プロフ) - ☆天香☆さん» ありがとうございます!!すっごく嬉しいです!文ストはキャラクターひとりひとりが個性的で大好きなので、つい絡ませちゃいます笑コメントありがとうございました!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくら餅 | 作成日時:2019年10月4日 16時