依頼 ページ3
失礼します、と本家の戸を開けてみると、
玄関からも感じるしんみりした雰囲気。
ああこれは何かあったな、なんて思いながら長い廊下を歩く。
そして座敷の前に来ると、
「入りなさい」
と障子越しに長老の声が響いた。
深く呼吸をして、気を引き締める。
「失礼致します」
障子を開くと深刻な表情の長老様と父上が並んで座っていた。
お座り、と父上が口を開き、私は2人と対面するように座る。
「夕朔から聞いたか。」
「…ええ。今日はどのようなお話でしょうか。」
あくまで慎重に、冷静に返す。
緊張感の流れる座敷で、長老の声が響いた。
「……噂にも聞いておらんか?」
いいえ、と返すと長老は一息ついて話し始めた。
「実はな、急な話なのだが……。戦争ぶりに仕事が入ったんや。」
……私が最後に仕事をしたのは、戦争
の時だ。それから5年は経っている。
しかし、何故こんなに急に……
すると父上が口を開いた。
「私達も断ったのだ。あれ以来そういう仕事はしとらんからな。だが、どうも熱烈でな…」
断りきれんかったんよ…と後悔ありげに言う父上。
「…入った仕事はやる性分ですのでやらせてもらいますが…。そんな熱烈な方とは、どんな依頼人なのですか?」
今の時代、殺し屋を知る人こそ少ない。うちの村はネットも普及はしていないのだ。それなのにそんな依頼人とは…。
「それが攘夷時代のお侍さんらしいのだが、ターゲットがとにかく酷い奴らしくてな、自分では手に負えないらしい。」
…攘夷時代の侍ということは、父上や長老様も知っている方なのでは無いのか…?なんて思っていると、父上が依頼人の情報を述べる。
「…名前は匿名希望、30代だそうだ。」
おいおい、随分曖昧な情報だなぁ。
「わしらが行って仕事をしてもいいんだが…問題は仕事の場所なんや。」
場所?と聞き返す。
しかし、その返答は思いも寄らぬ言葉だった。
「…江戸なんだよ。」
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作者名:師走 | 作成日時:2017年1月29日 20時