マチノソラ

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着いたのは、住宅街にひっそりと佇む古いビル。
外からじゃお店だかどうかわからないくらいに控えめな看板が入口の奥に見えて、薄暗い店内に入れば人の良さそうなマスターが何も言わずに奥の個室に案内してくれた。


「飲む？」

「………やめときます………」


畳の部屋に通されて、ヒラヒラとドリンクメニューをふって意地悪く笑う顔にわざとらしく反省してみせる


「食べられないものはある？」

「いえ、大丈夫です」


じゃあウーロン茶2杯と、これとこれとこれとメニューを指させば、軽く会釈したマスターは扉を閉めて出て行った。


向かいに座る顔が真っ直ぐ見れなくて、おしぼりで何度も手を拭く。


「こないだは飲ませすぎちゃったみたいでごめんね」

「いえ、私の方こそ………！」

「もしかして日本酒はじめてだった？」

「日本酒なんて飲んだんですか私」

「そこからかぁ」


楽しそうに笑う顔に緊張が解れて少しだけ肩の力がぬける。


「遅刻は大丈夫だったの？」

「後輩がフォローしてくれたんですけど、今度焼肉奢ることになりました」

「あははは、いいね〜。男の子？」

「はい、生意気なんですけど仕事はできるんですよね〜」


倫也さんが頼んでくれたご飯はどれも、こんなバーみたいな所で出てくるなんて想像もつかない美味しさだった。


美味しい美味しいと目を輝かせる度に嬉しそうに笑った倫也さんの顔がかわいくてドキドキして、なんでバーに畳の部屋があるんですかねと誤魔化して話題を逸らせば、それ俺もずっと思ってた、とまた笑った

それから、会社の話やドラマのこれから、倫也さんの好きな動物の話で盛り上がって、美味しい料理はすぐになくなってさらに2つ追加した。

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