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*side you


私が志麻さんと別れてから早3年。
もうとっくに高校は卒業して、普通の大学に通って、人並みに彼氏というものができた。
あの時程燃え上がるものはないが、まぁ幸せと呼んでいいくらいの出来栄えだろう。

幼さにかまけたあの日の私は、もういない。
冷静に分析すればするほどあの恋の無謀さ、継ぎ接ぎだらけの部分、何もかもがよく見えた。

それでもまだ忘れられない熱情と体温。
荒々しい夜更け、震える背筋、冷ややかな指先、それら全てがいつでも思い返せる程に鮮明に焼き付いている。

それぐらい、あの恋は私にとってどこか浮世離れした恋だった。
ただ、恋だったことが事実だ。


「…もしもし?」
「A?後10分くらいで着くけど、大丈夫?」
「うん。待ってるね」

やっぱり、優しい。
それがとてつもなく悲しいことを、彼はわからない。
私の恋を、知らないから。

駅の改札近くで彼氏を待っているだけなのだが、なんとも過保護にこまめに連絡を入れてくる。
こういう辺りは性格というか、性分が出るのだろう。


「…A、」
「え、あと10分…って………」

嘘。

瞬間的に出たのはその2文字。
たった2音の響きなのに、かち合う視線すら越えて触れあうような感覚がした。

「志麻…さん、」

目の前にいたのは彼氏じゃない、元彼氏。
あの日以来会ったことも連絡したこともなかった彼がそこに居た。

あの日終わった筈の恋が、そこに居た。

「A、今…って、時間ある?」
「……まぁ、」

少し目線を逸らした後、背を向けてメッセージを送った。
"ごめん急用…"と一言だけ。
返信も既読も待たずに携帯をバッグに仕舞うと、3年前と変わらない立ち姿の彼に目を移した。

「志麻さん、ですよね?」
「うん」
「…変わらないですね」
「Aは、綺麗になったな。あん時より」

素っ気ない会話のテンポはあの日マンションの玄関で交わしたものと重なりそうだ。
それだけで涙が蘇りそうなのに、なんで、

(そんな哀しそうな顔、するんだろう)

「俺な、ずっとAに謝りたかってん」
「え、…」
「中途半端なことしてごめん、って。ほんまに俺、Aと本気やったんに、彼女と別れんとふらふらして…そんで、傷つけた」
「…」
「やり直そう、とは言わん…し、言えん。けど、俺はまだ、」
「もう、やめて…?」

ゆっくりと、掌で彼の口元を塞いだ。
だんだん焦って早くなる口調も哀しげな表情も、全部全部、もう見たくなくて。

*→←*



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設定タグ:歌い手 , 大型コラボ , 短編集   
作品ジャンル:恋愛
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あゆ(プロフ) - どのお話も切なくて、思わず1話読み終わる事に泣いてました…w最高でした!ありがとうございます…(´;ω;`) (2019年7月25日 21時) (レス) id: e76134e0bd (このIDを非表示/違反報告)
夏々 - まふくん……悲しすぎる(;_;) (2018年11月22日 23時) (レス) id: ca7b93074f (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり - かのこゆりです!天使病のお話を書かせていただきました。お褒めの言葉、ありがとうございます!緊張していたのもあり、正直あまり自信がなかったのですが、そういっていただけて嬉しいです。読んでくださり、本当にありがとうございました! (2018年11月22日 4時) (レス) id: 459f75f8c6 (このIDを非表示/違反報告)
sera(プロフ) - ぬこさん» 坂田さんの小説の作者、seraです。私の書いたものが良かった、と書いてくださったのでコメント返しさせて頂きます。そう言ってくださりありがとうございます。これからも私含め、他の作者様のこと、応援よろしくお願い致します! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 28f01b04a4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬこ - 凄く感動しました。特に、坂田さんの入院(?)のやつと、まふまふさんの天使病のやつです。めっちゃ泣きました!これからも頑張ってください! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 4fbcbbbe7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:参加者一同 x他1人 | 作者ホームページ:  
作成日時:2018年11月20日 22時

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