将来の夢は、作家。

二十 ページ21

梨井奈は一言、
「離して」
と藤崎さんに言って、わたしの方を仏頂面のまま見る。

「桐原さんの叔父さんって、望さんでしょ」
望、というのがわたしの叔父さんの本名だ。
しかし、どうして梨井奈が知っているのだろう。
「これ」

梨井奈が持っていたものは、叔父さんの自伝小説だった。
何気なく開いたページには、


　僕には、もともと物書きとしての才能がなかった。
　しかし、紗月には生まれつき、天才的な文章力が備わっていた。
　僕は彼女のような才能が欲しかった。
　でも、書いても書いても、小学生並みの文章しか書けない。

　何でもできる、とか天才、とか言われること自体に、プレッシャーを感じていたのか。
　今の僕にはわからない。


と書かれていた。

「自伝小説、だから、名前そのまま」
単語と少しの助詞しか話さない梨井奈の言葉は理解しにくい。
さくらも首をかしげて、「どういうこと？」と聞き返している。

梨井奈がまったく同じ言葉をさくらに繰り返しているのを見て、藤崎さんがわたしの耳元で
「えっと、桐原望さんの書いたこの本は自伝小説というものだから、登場人物は全員
本名をそのまま使っているよって梨井奈は言いたいんだよ」
と教えてくれた。

ずいぶん早く梨井奈の言葉を理解していた様子の藤崎さんに
「ねぇ、梨井奈と仲いいの？」
と興味本位で聞いてみる。


梨井奈は第一印象無愛想、無口ということもあってか、フレンドリーな人でも
梨井奈に話しかけてみようとする人はまずいない。
それこそ梨井奈と絡んでいる人はよほどのモノ好きってくらいのイメージを持たれている。

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