第五十二話 思い違いに疑問 ページ3
「...足元に気を付けて進め」
桂は女の纏う空気に気を使う。
それもそうだ、以前に会った時、自分は我を忘れて急に淑女に抱き着いてしまったのだから。
警戒されても仕方ないと、桂は自分の所業を呪った。
『...っ』
「...」
自分の隣で探り探りに歩いている女を横目で見る。
見れば見るほど...似ている。
寺子屋時代を共に生き、楽しかったことや辛かったことを共有した昔の友人。
...死んだはずの、名無しの少年に。
『...な、に?』
ジロジロと見つめすぎたかもしれない。
女は前を見ていた視線を、男に移した。
「あ、いや...そのっ...」
女の怪訝な表情を向けられ、桂は黒目を右往左往しあからさまに動揺してしまった。
歯切れの悪い言い方は慣れない、だが女の意識がこっちに向けられては誤魔化しようもないだろう。
「...以前の事は、すまなかったと思っている。昔の旧友に瓜二つだったんだ」
素直に謝るべきだ。
「...俺は桂小太郎、先ほど言ったように俺は攘夷浪士だ」
以前に会った時、女の事を部下に調べさせた。
詳しい所在は把握できなかったが、真選組の女中の仕事を行っているという事だけはわかっていた。
この女は真選組の身内、だが他の攘夷浪士達にこのことを知っている者は数少ない。アジトへ連れ帰っても浪士達の激高に触れることはないだろう。
何より、銀時が必死に護ろうとしている女を見過ごせるわけがない。
『...A』
小さな唇から出た小さな声。
その声は高く、可憐な容姿によく合っている。
こんな美しい女が、男であるわけがないじゃないか。
自分の思い過ごしだったに違いない。
「...ふっ、いい名前だな」
薄暗い道を歩く、二人の長い黒髪。
揺れる艶やかな髪は微かな灯りを反射しキラキラと輝いている。
攘夷浪士のアジトまでもう少し、後ろから追手が来る気配はない。
『...っ』
女の顔は晴れない。
きっと、自分たちのために残ったあの勇敢な男の事を考えているのだろう。
「...銀時なら大丈夫だ、心配するな」
少しでも安心させたいと声を掛ける。
桂の慰めに、女は黙ったままこくりと頷いた。
「...またすぐ、会えるはずだ」
銀時が命を懸けてまで護ろうとす女。
一体あの男をどんな手法を使って骨抜きにしたのやら。
ナナシに似ているこの女。
第五十三話 些細な出来事で、白黒が色づく→←第五十一話 君の身を最優先に
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白桜姫 - 続き無いんでしょうか? (2018年11月16日 2時) (レス) id: d2ccbb161c (このIDを非表示/違反報告)
幸村時雨(プロフ) - 夏希さん» コメントありがとうございます!応援、とても励みになります^^更新頑張りますので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年4月4日 22時) (レス) id: 7a07976017 (このIDを非表示/違反報告)
夏希 - 面白いです!頑張ってください!更新楽しみにしてます! (2018年4月2日 21時) (レス) id: 7d93fff421 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:幸村時雨 | 作成日時:2018年3月25日 1時