第六十話 あの時と同じように 〜過去〜終 ページ11
吹き荒れる豪雨に構うことなく、扉は開けっ放しのまま。
玄関に佇む男は、濡れた前髪さえ直さないまま一人の女に視線を向けた。
『...っ』
もう一度、雷の光で部屋が照らされる。
血と雨で濡れた隊服を身にまとった、見知った顔。
(...し、んすけ..?)
纏った雰囲気が怖い。
いつも通りの「ただいま」の声掛けがない事が、こんなにも違和感を感じるなんて。
「...A」
低い声音に肩が震える。
晋助の顔は暗がりで良く見えない。近づいてくる体に、何故だか後ずさってしまう。
Aの行動も空しく、あっという間に縮まれた距離に顔は俯かれたまま。
『っ...』
大きな掌がゆっくりと近づき、Aの細い首筋を撫でる。
その手は雨に体温を奪われていて、まるで死人のようだ。
捕まれた細い首に徐々に食い込む指に、より一層体の硬直を促された。
地面に押し付けるようにAの体の上に覆いかぶさる影。
ああ、この光景、どこかで見たことがある。
雨で、黒い闇に首を掴まれた...遠い遠い、幼少のトラウマ。
――――声が、奪われた日の記憶。
「お前の、居場所は...ここだ」
怖くてこわくて、でも逃げ出すことは許されない。
委縮した体に、更に圧をかけられてしまう。
「奴らの...銀時達の事は、すべて忘れろ」
これは”命令”。
自分の判断など、一切必要とされない。
答えはもう、すでに決められてて。
「...俺だけを、愛せ」
私を見つめる瞳は、片方だけ。
晋助の右目には濃い靄が架かっていて、赤黒い鮮血が絶え間なく流れ出ていた。
右目から流れる血は男の頬を伝い流れ、ぽとりと女の頬へ移る。
ひとつ、ふたつ。
『...し、んす...けっ』
乾いた喉から出た、掠れた声。
血のにじんだ唇から紡がれる言葉は、ずっと男が待ち望んでいたものだった。
『...あいし、て...る』
女の瞳に移るのは、潰された男の目。
光のない虚空を見つめる彼女に、男は狂気な笑みを浮かべる。
もう、何も感じない。
私に残されたのは、この孤独な男だけ。
「...お前は、俺だけのモノだ」
皮肉なことに、Aは自分から声を奪ったあの出来事と同じような状況下で、声を取り戻した。
これ以上ない強引なやり方で、幼少のトラウマに上から塗り重ねられた。
血と雨の匂いが、鼻腔を刺激する。
第六十一話 自分の気持ちは正直で→←第五十九話 雷鳴に照らされた、闇
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 178人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白桜姫 - 続き無いんでしょうか？ (2018年11月16日 2時) (
レス) id: d2ccbb161c (このIDを非表示/違反報告)
幸村時雨(プロフ) - 夏希さん» コメントありがとうございます！応援、とても励みになります＾＾更新頑張りますので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年4月4日 22時) (レス) id: 7a07976017 (このIDを非表示/違反報告)
夏希 - 面白いです！頑張ってください！更新楽しみにしてます！ (2018年4月2日 21時) (レス) id: 7d93fff421 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：幸村時雨 | 作成日時：2018年3月25日 1時
