〃 ページ7
◇
もはや何度目か分からないが、椅子に座り直す。直接映像で見せられるということもあって、アラジンの握った拳には汗がじわりと滲んでいた。
「と言ってもあまり時間はありませんから、全てを話すという訳にはいきません。あくまでもあなたが知らない琥珀をお見せするだけです。そうすれば、あなたが元々識っていた記憶も、それに引き摺られる形で甦るでしょう」
彼の前には、先程工房から持ってきたであろう、大きな水晶玉のようなものが鎮座していた。
全てを飲み込むような透明感に気圧されて、自然に背筋が伸びる。
───今度こそ、琥珀のことが語られるのだと。
「あなたはかつての世界のことを明かす際、『この世界の神に背く』と言ったそうですね」
唐突に、梟はそんなことを言い出した。
「？ う、うん」
「ならば私は、自らの主に背くということでしょうね。
……琥珀は、私にとっての全てでした。
基本的にこの工房を守ることを命じられていましたから、アラジンたちのことも、あくまで記憶に記された記録でしか知り得なかった」
とつとつと話し始める。
「この失敗作を造り上げた琥珀を恨めしいと思ったことさえあったのですよ、私には。琥珀も
ですが、それは違いました。彼女は彼女で、私を不完全にしてしまったことを悔やんでいた。ですが私は、今はそれでいいと思っている」
硝子玉のような作り物の眼球は、ふたつ揃ってどこか遠くを見ているようだった。
「私は死ににいく自らの主に『死ぬな』の一言すら言えなかった。
ですが、今は琥珀から譲り受けた知識と記憶、それに───私の
その声は彼らしくもなく、大きな感情を孕み揺れ動いていた───否、これが本当の彼なのだろう。
梟は翼を羽ばたかせ、水晶玉にかざした。瞬間、どこからか突風が吹き、アラジンとなぎさの髪を大きく揺らした。
「きゃっ！？」
ぶあ、と髪が舞い上がる。だが、アラジンは水晶玉から目を離さなかった。瞬きすらも忘れるようだった。
それは、煌々と輝く月のよう。真っ暗な空に穴を穿ったような月は、同じような光り方をするのだろう。
一時も目は離さずに。一つも見逃すわけにはいかない。
梟は絵本のページを捲るように、静かに喉を震わせた。
「さあ、これが、琥珀の生きた記録です」
◆
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 65人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無しさん(プロフ) - 藍茶さん» 藍茶さん初めまして、ご感想ありがとうございます！返信が遅くなってしまってすみません。この状況下なので私生活でも色々あったのですが、できるだけ更新ペースも元に戻していきたいとは思います。よろしくお願いします (2020年6月4日 16時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
藍茶(プロフ) - 最近読み始めました。めっちゃ面白いです！更新待ってます(*´ `*) (2020年5月10日 1時) (レス) id: cd49a05e5e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名無しさん | 作成日時：2020年3月4日 21時
