ネクタイを緩めたら

君が帰った後 ページ40

side 宏光



その日の終業時間間近

続々と帰り支度をする社員たちに紛れて

いつものようにAが俺たちの所にやって来た。



A「お先に失礼します」


藤ヶ谷「うん、お疲れ...また月曜日にね」


A「はい！お疲れ様でした」


藤ヶ谷「ばいばい」


宏光「お疲れ...」



今日は土曜日で、日曜日の休みを挟むからか

藤ヶ谷はいつもより一層寂しそうな表情で

帰っていくAの後ろ姿を見つめている。


...Aは、俺の女なんだからな！

そう言ってやりたいけど、出来ないもどかしさが俺を苦しめる。

Aから目をそらして、またパソコンに視線を戻した藤ヶ谷に、俺は声をかけた。



宏光「...なぁ、そういや新歓の店決まったの？」


藤ヶ谷「ああ...それがさ、いつもの居酒屋に電話入れたら、もう予約入ってるって言われちゃって...」



この話はAから聞いてもう知ってたけど

初めて聞いたようなリアクションを取る。



宏光「そうなの？...俺、他にいい店知ってるけど」


藤ヶ谷「マジで？どこ？」


宏光「駅からちょっと離れた、居酒屋がめっちゃ並んでる通りあるじゃん？」


藤ヶ谷「えー...分かんない」



俺は仕方なくスマホでサイトを出してやった。

藤ヶ谷はキャスター付きの椅子を動かして、俺の方に寄って

スマホを覗いて、うんうんと頷いた。



藤ヶ谷「ここいいじゃん！電話してみるよ、ありがとな」



そして、自分のスマホにその居酒屋の電話番号をメモした。

よし、Aとの約束は一応守れたな...

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