説教。 ページ5
彼の手を引いて向かうのは、本来立ち入り禁止の屋上。
かなり古い作りになっていて、鍵をかけてもコツさえ掴めば簡単に開けてしまえる。
なぜ、わざわざここまで来たのかと言えば、音が漏れないからである。
もし、私が怒りを堪えきれず、及川を殴ったとしても隠蔽が可能なのだ。
｢よいしょ……。｣
足を踏み入れると、蒸し暑い風が頬を撫でる。
9月になったからといっても、まだまだ暑さは厳しい。
私は一つ深呼吸してから、後ろの及川へ振り向いた。
｢…あのね、部活前に呼び出したりして、申し訳ないとは思ってるんだよ？｣
片眉を吊り上げながら、なるべく穏やかな口調になるように、意識して、ゆっくりと話す。
今年の目標は、えれがんとな女性になることだ。
只今、"えれがんと"とは何かを勉強中である。
｢でも、私だってこんな話、したい訳じゃないし、させてるのはあんたなの。｣
｢……うん。｣
そこは理解しているのか、及川は素直に頷く。
自分より20センチもデカい男を叱ってるなんて、不思議な気分だ。
｢……今日ね、一年生の女の子が来たの。及川先輩に告白したいんだって。｣
｢あ、知ってる！萌絵ちゃんでしょ？可愛い子だよね〜。｣
へにゃ、っとした笑みを作り、悪びれることなく、及川はそう言った。
早速、殴りたくなったが、1回手を出したら止まらなくなりそうなので、グッと堪える。
｢そう、紫ヶ崎萌絵ちゃん。……狙ってたの？｣
｢うん、勿論。｣
嗚呼……、よりにもよって、こんな野郎に目をつけられるなんて！可哀想な萌絵ちゃん！！
今すぐこの場に引っ張ってきて、貴方の好きな人は糞より汚い最低男なのよって言ってやりたい。
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作者名：あまめすん。 | 作成日時：2019年7月7日 17時
