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「みっくんはこの10年ですっかり人気者だもんね」
「うん、まぁ…そうだね」
Aからのカミングアウトが俺の中でまだ落とし込めてなくて、気持ちの切り替えができずに上辺だけの返事をしてしまう。
この10年はAが俺の前から姿を消したことで、がむしゃらに仕事するしかなかったっていうのが正直なところ。
結果としてはいい方向に転がったけど、それも全てメンバーのおかげであって俺だけの実力ではない。
「みっくんのことテレビで見るたびに嬉しくなってたよ」
「見てたの?」
「だって自分と関わった人だもん。売れてくれたらそりゃ嬉しいものだよ!」
誰かは聞けないけど…
俺の前の人も、きっと今や売れてる大先輩なんだろうな。
「今は廣瀬さんと…?」
「っ、やだ…!勘違いしないでよ?
廣瀬さんとは仕事のパートナーなだけ!」
「パートナー?」
「そう、秘書みたいな感じ」
「そうなんだ」
「廣瀬さんが居なきゃ今頃私なんてボロボロになってたと思う」
俺らのところの仕事を辞めて今度は会員制の風俗店で働こうとしたAを止めたのが廣瀬さんだったらしい。
運命っていうのは不思議なもので、ちょうど面接で店に入ろうとしたAに声をかけたのがきっかけだったとか。
「廣瀬さんね、そうやって事情を抱えた女の子たちに仕事を見つけて助けてくれるの」
「俺らの業界では権力者としてビビられてるけどね」
「みたいね。
でも一風変わった、あしながおじさんって感じ。まぁ実際おじさんだし(笑)」
さっきの落ち込んだ表情は消えてて、俺の方を見ながらクスクス笑ってる。
「こうやってみっくんとまた会って話せるのも廣瀬さんのおかげなのかもね」
「うん。確かにね」
飲みきったグラスをテーブルに置くと中の氷がカランッと音を鳴らした。
それが俺の心の中で合図となって意を決して口を開く。
「A」
「ん?」
「俺ら、一からやり直さない?」
「…え?」
小さな唇をポカンと開けて、俺を真っ直ぐに見つめる大きな瞳。
この10年、変わったことのない俺の気持ち。
ずっと、ずっと、この日を待ってた。
忘れたなんて嘘。
自分の気持ちに蓋してただけ。情けなく引きずり続けてた俺。
今日ここで言わなきゃ、それこそ一生後悔すると思った。
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作者名:珠美 | 作成日時:2021年11月22日 12時