◇ ページ15
.
「あっ、空いてる！」
「ーー？」
店に入ってすぐにカウンター席を指差して嬉しそうに駈けていく。
…あっ、そこの席。
「覚えてる？
最後に会った日、みっくんここに座ってたよね！」
あの日のことを楽しい思い出のように話すAを黙って見つめる。
俺はあの日からこの世の終わりのように落ち込んだし、仕事にも身が入らなくてダンスの練習でも何度ミスしてメンバーからイライラされたことか…。
「今日はここ座っちゃお！」って言いながら、以前は一つ空けてた席に腰掛けたA。
「ほら、みっくんも座って」
「あ、うん…！」
手招きされて言われるがまま俺もAの隣に腰掛けた。
「この店、あれから来てたの？」
「うん、一度だけね」
「そうだったんだ」
「奇跡でも起きてみっくんに会えるかなぁって思ってね」
俺の気持ちを知ってか知らずか、なんてねって照れ笑いしてるAにドキドキが止まらない。
「そういえば子供は？元気？」
あれから10年以上が経ってるから、子供だって小学生とか？
それにしても童顔なだけあってAの見た目は変わってないし、とてもじゃないけど子持ちには見えない。
「男の子？女の子？」
矢継ぎ早にした俺の質問にAが無言で首を横に振る。
この後に続く言葉に俺は思わず息を呑んだ。
「…あれね。実はダメだったの。
みっくんに話してすぐ流れちゃったの。」
……なんてことだ。
俺から話題に触れておきながら、かける言葉が見つからない。
「赤ちゃんの事もすごく辛かったけど、それ以上に相手の人が既婚者だったことを知ってさ。こういう仕事してるから罰でも当たったのかな…」
切なく笑いながら頼んだハイボールを口にしたAの横顔をただただ見つめる。
こんなにも近くで見るAの悲しい顔は初めてだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 149人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：珠美 | 作成日時：2021年11月22日 12時
