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「あぁ、それ同期の忘れ物」
月曜日に返そう、なんて思いながら自分の食器もシンクの中に置くと、ダンッと玉森くんが私の横に手をついた。
驚いて咄嗟に顔を上げると想像以上の至近距離で玉森くんの瞳に捕らえられて心臓が跳ねる。
「なに、同期って。男？家に入れたの？」
え？なんか怒ってる？
さっきまでの上機嫌は何処へ？
「女の人が吸うような銘柄じゃないでしょ、これ」と続けて呟いた。
タバコを忘れた同期は確かに男だけど、同期会みたいなもので女の子もいたし、みんな一緒に帰った。
「そうだけど、別に何も…」
どう返すのが正解か分からなくて言葉に迷う。
そんな私の戸惑った態度に玉森くんは少しハッとしたような表情をすると「いや、ごめん」と罰が悪そうに視線を伏せて私から離れた。
「そろそろ行くわ」
気まずさを埋めるようにスマホの時間を確認してリビングから玄関へと向かった。
「じゃあ、お邪魔しました」
靴を履き終えるとクルッと振り返って優しく笑う。
「仕事頑張ってね」
「あのさ、」
「？？」
「名前で呼んでくれない？前みたいに」
突然のお願いに言葉が出てこない。
「…そんなに嫌？」
嫌か嫌じゃないかと言われれば後者だけど、今の私たちにその呼び名は相応しくないと思ったから。
今目の前にいる玉森くんは私が知ってる昔の彼とは違う。
私だって一度は夢見た輝かしい世界で成功してる。
「…まぁいいや。じゃ、また！」
私の言葉をこれ以上は待てないと言わんばかりに玄関のドアノブに手をかけた玉森くんが曖昧な約束を残して帰って行った。
バタンッとドアが閉まる無機質な音を確認して私はその場で力無く座り込んで、高鳴る鼓動を必死に押さえ込むようにして惑わされるなと自分に言い聞かせる。
彼が残した�爐泙燭有瓩�あれば、私はどんな答えを出すんだろう__
あの時、私は彼の成功を願って手を離した。
後悔してないと言えば嘘になるけど、あの決断が間違ってたとは思ってない。
だからこそ、また同じ過ちを繰り返したくなかった。
to be continued...
長くなってしまうので続編を書く予定です!
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作者名：珠美 | 作成日時：2023年4月18日 12時
