またねがあれば_T ページ39
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“初めて”
誰かを本気で好きになったのも、付き合ったのも、大人としての一歩を踏み出したのも、全部全部、彼が初めてだった__
「Aは最近どうなの？」
「どうって？」
「彼氏は？」
高校の同級生の結婚式も二次会から三次会へと進めば、ただの同窓会へと変わる。
「何もないよ、うちの職場おじさんばっかりだし」
懐かしい人に会うたびにいつも同じ答えを繰り返す。
歳を重ねるごとに好きな人の話から彼氏の話が増えて、いつしか旦那というフレーズが飛び交うようになった。
「Aは次なに飲む？」
そう問われてスマホを確認すると、終電に間に合うかどうか際どい時間になってた。
「…ごめん、私もう帰るね」
「え、もう？まだいいじゃん！」
「明日朝早いから、ごめんね」
華やかに着飾った友人たちに両手を合わせながら謝ると、結婚式用の小さなバックと引出物の入った大きな紙袋を手に取って私は立ち上がった。
だいぶお酒も回って盛り上がる中で新婦の友人に「おめでとう」と声をかけて店のドアを開けた。
冷房のガンガンにきいた店内で冷えきってしまった体がムワッと蒸し暑い外気に一気に包まれて、あまりの不快感に思わず顔をしかめた。
「A？」
駅まで歩こうか、いやこのまま適当にタクシーでも拾って帰ろうか、そう迷いながら空を見上げてたら横から呼ばれた名前に顔を向けた。
「やっぱりそうだ」
振り向いた先に立つ彼が優しく笑ってる。
最後に会ってから10年以上が経過してるのに、一方的な媒体から目にする機会はいくらでもあるからか久しぶり感は不思議と感じなかった。
「おーい、聞いてる？」
驚いて固まる私の顔の前で手の平を振って見せる。
「…玉森くん」
「久しぶり」
彼との再会を望んでいたのかどうかは分からない。
だけど、今回の結婚式の招待状が届いた時に真っ先に思い浮かんだのは彼の顔だった。
「…すっかり大活躍で順調そうだね」
「まぁ、そうだね」
こんな当たり障りない褒め言葉に彼は喜ぶわけでもなく、むしろぶっきらぼうな声のトーンで呟いた。
「もう帰るの？」
「あ、うん。でもみんなまだいるよ！」
「玉森くんが来たら喜ぶと思う」なんて言いながら私が指差すお店の入口に一瞬だけ視線を向けたかと思えば、またすぐに見つめられた。
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作者名：珠美 | 作成日時：2023年4月18日 12時
