◇ ページ29
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〈今どこ？〉
「ゆう、…あ、えっと、今まだ帰ってる途中で、」
〈鍵無いから早く来て〉
「え？うちに来てるの？」
〈ダメだった？〉
「いや、ダメじゃないけど…」
辺りを見回せば家まであと少しの距離__
このまま先輩と二人で向かえば裕太くんと鉢合わせちゃう可能性がある。
「ま、待ってて…！すぐ帰るから！」
そう言って電話を切ると先輩の方を向く。
「すみません、家すぐそこなのでお先に失礼します…！」
勢い任せに頭を下げて肩から掛けたカバンを抱えこんで逃げるようにその場を立ち去ると、マンションのエントランスの前で壁に寄りかかる人影が目に入った。
「裕太くん！」
「俺の前で堂々と浮気？」
「え、？？」
「だから俺と付き合ってること内緒にしたかったの？」
裕太くんから向けられた冷たい視線に冷や汗が止まらなくて体が強張った。
「…見てたの？」
「たまたまタクシーで通っただけ」
人は来なかったけど、確かに車は数台見たような…
って今重要なのはそこじゃない！！
「ずいぶん強引に口説かれてるように見えたけど」
「っ…、」
「彼氏いるって言わなかったの？」
「だから、それは言いたくなくて、」
「そうやって隠して浮気するつもりだったの？」
「違う…！そうじゃないの！」
根掘り葉掘り聞かれないように、職場で変な噂がたてられないように、自己防衛のために隠してたつもりなのにこんなことになってしまうなんて。
「ごめんね、今のは私も無防備だったかもしれない…」
「てかなんでそんなに隠したいの？まじで浮気する気だった？」
「それは本当に違うの！」
「じゃあなんで？」
裕太くんが変な責任を感じても嫌だったから本当のことは言いたくなかったけど、浮気を疑われるくらいならちゃんと話した方がいいのかもしれない。
「とりあえず中入って」
そう言ってエントランスに入ると黙ってついてくる裕太くんを家の中に招き入れた。
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作者名：珠美 | 作成日時：2023年4月18日 12時
