◇ ページ25
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「えっ！はや〜い！さっすが〜！」
息の切れた俺を見てケラケラ笑う酔っ払い。
本来なら呆れ返るところが可愛くてたまらない。
いや、まじでコイツの前でそういう態度やめてくれ。
『あれ、早かったね』
閉店時間の過ぎた店内にはカウンターで並んで座る二人しかいない。一人はテーブルに突っ伏してるけど。
裏から戻ってきたマスターが俺を見るなり『何か飲んでく？』と気遣ってくれた。
「ごめんマスター、迷惑かけて」
『翔太、弱いのに楽しそうにしてたよ』
「渡辺、起きろって」
「しょーちん、起きて〜」
「しょーちん？！」
「うん、だって、しょーちんって呼んでって」
「そんなもんいちいち真に受けるなよ」
「…こっわぁ」
全く起きない渡辺を引きずってさっさとタクシーに乗せる。
「Aも乗って」
「え？なんで？」
「いいから早く」
なんでよ〜と口先尖らせてるAの腕を引いて、詰め詰めの後部座席に無理矢理乗せた。
先に渡辺をマンションの前で降ろすと、Aだけを車内に残して一旦タクシーから離れて家まで送り届けた。
すぐさまタクシーに戻ると次の目的地であるAの家へと向かう。
「千ちゃん」
「……」
「怒ってる？」
「そりゃマスターにも迷惑かけてるからね」
「ごめんね？でも迎えに来てくれてありがとう」
「今度から一人飲み禁止」
「ええー…」
「飲みたかったら俺に電話して」
「だって千ちゃん忙しいじゃん」
「いいからまず電話」
「んもう、過保護なんだから」
自分でも分かってる。
Aのことになると異常なほど過保護だって。
心の奥底に眠る自分の気持ちには随分前から気付いてた。
だけどそれを伝えてしまえば早かれ遅かれ俺らに終わりが来てしまう気がして、程良い“過保護な男友達”のポジションをキープするようになった。
欲を言えばキリがないけど、それ以上に今の関係が壊れるのが怖かった。
「あ、すみません、この辺りで大丈夫です」
「家の前まで送ろうか？」
「すぐそこだから大丈夫。
本当にごめんね、急に呼び出して」
「今日に関しては呼ばれない方がキレてた」
「そっか(笑)
ありがとね！じゃあ、おやすみ！」
「おやすみ」
運転手にお願いしてAがマンションのロビーに入るのを見送るまで発進するのを待ってもらう。
そんな俺の気を知らないAは振り返ることなく中へと入って行った。
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作者名：珠美 | 作成日時：2023年4月18日 12時
