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「いってきまーす」
「気を付けてね！」
靴のつま先をトントン突きながら慌ただしく出て行く俊哉を見送ると玄関のドアがバタンッ…と閉まった。
同棲を始めてすぐの頃は、行ってきますのチューとかしてたっけ。それすら遠い過去のように懐かしい…。
もともと小さい頃から世話好きな性格で良いお母さんになると事あるごとに友達から言われてた。
別に好きでやってることだから苦に感じたことなんてない。
だけどたまにすごく不安になることがある。
この関係に果たしてゴールはあるのかなって__
私はこれから先もずっと彼女なのかお母さんなのかハッキリしない立場で彼の側にいて、それで私たちは幸せなのかなって__
彼のことはもちろん好き。
ふにゃっとなる柔らかな笑顔も、周りの声が全く聞こえなくなるまで趣味に没頭してる時の真剣な顔も、小さな喜びをとても大きな幸せなことのように語るところも、全部全部好き。
好き過ぎて私からは到底手放せそうにない。
だからこそ答えが出せずに悩んでる。
ただもう少し、あともう少しだけ、
�猯�人�瓩任△觧笋房�信を持たせてほしいなって__
そんなモヤモヤした気持ちを抱えたままの仕事では見事にミス連発。
このままじゃ負の連鎖が起きそうで早めに断ち切ろうと決心した。
「ねえ、俊哉」
「ん？」
「私のこと何だと思ってる？」
「え、なに？急に」
「お母さんだと思ってない？」
「俺のお母さんなら家にいると思うけど」
「そういうこと言ってるんじゃなくて、」
「なに？どういうこと？」
「……いや、いいや。ご馳走様」
「え、A？なんか怒ってる？」
夕飯の食器を片付ける私と慌てた様子でボソボソ何かを言っている彼。
ここで逃げてはまた同じことの繰り返しなのは分かってる。
それなのに結局私は本気で俊哉と向き合うことが怖くて逃げてしまった。
一度気まずい空気になってしまうと、その後どうやって会話したらいいか分からなくなって先にベッドに潜り込んで眠りについた。
翌朝もいつも通り彼よりも先に目が覚める。
だけど今日は寝たフリをする。
…もう彼のお母さんになりたくない。
そんな私の意地が俊哉との心の距離を広げていく気がして__
こんなにもすぐ近くにいるのに恋人であるはずの彼の姿が遠くに感じて寂しくなる。
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作者名：珠美 | 作成日時：2023年4月18日 12時
