ある花嫁の話_Y ページ32
.
「どう？なんか違和感しかないんだけど」
シャッと白いカーテンを開けて試着室から出てきた渉くんは、さっきまで着てた普段着とはまるで違う白いタキシード姿。
リボンが曲がっていて吹きそうになると、スタッフの人が丁寧に直してくれた。
いつものゆるっとした私服でも、キラキラしたステージ衣装でもない、シルクで裾の長いデザインのタキシード姿は新鮮で「孫にも衣装だな」なんて自分自身で呟いてる。
「無言はやめて、頼むから」
『とってもお似合いですよ』
私より先にスタッフさんが言う。
そう、その通り。その言葉以外出てこない。
だから私は目を大きくしてただただ頷く。
『お写真に残して次の着てみましょうか』
スタッフさんの言葉に慌ててスマホをカバンから取り出すと、言われるがま無表情の渉くんの全身写真をパシャリ。
そのまま更衣室へと戻って行った。
しばらくして、再度渉くんの試着が終わったようでスタッフさんが先に更衣室から出てくる。
「お、いい感じじゃん」
カーテンの奥から渉くんの小さな声が聞こえた。
今試着してるのは衣装室に置かれた雑誌の表紙に載ってたモデルさんが着てたやつ。
表紙になるくらいだから人気のデザインなのかなぁなんて思いながら開いたカーテンの方へと視線を移す。
「どうよ」
さっきは恥ずかしそうだったけど、これは自分で選んだだけあって自信のある佇まい。
さっきのだって無言になってしまうほどカッコよかった。
でもこっちの方が断然似合ってる。
何なら雑誌の表紙をこのまま渉くんにした方がいいんじゃないかってくらい。
「うん！凄くいいと思う！」
少し動いてみたり、生地を触ってみたり、鏡の前で何度も角度を変えて見てるから気に入ったんだろうな。
「それにする？」
「Aはどっちがいいと思う？」
「こっちの方が渉くん着てて自信満々って感じ」
「はは、なんだそれ」
そう笑いながらも「まぁでも着こなせてるのはこっちかな」なんてやっぱり自信のある発言に思わず吹いてしまった。
渉くんがこのタキシードを着て、その横を私が歩けることを想像するだけで幸せな気持ちになる。
「次はAの番ね」
「あ、うん…！」
やっぱり男性側は早い。
これからが長くかかるであろう私の順番がやってきた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：珠美 | 作成日時：2023年1月27日 9時
