やっぱり_ki ページ19
.
Aと付き合い始めたのはいつ頃だったかな。
もう何年も前だから忘れてしまった。
「宏光さ、遊ぶのはいいけど私にバレないようにしてよね」
バンッと音と共にぐしゃぐしゃにテーブルに置かれた紙を広げるとビールやハイボールの文字が連なるレシートだという事がわかった。
よく見れば女の子と飲みに行った時のもので、カシオレやらカルーアミルクやら可愛い酒が印字されてるからバレるのは当たり前。
俺がここに帰らなかった日の日付けと遅すぎる時間が刻まれたレシートはどう考えても言い訳できないものだった。
「ごめん、でも俺は誘われただけだし」
だいたい彼女にする子は直感でいく俺なのに、Aは長い友達の関係から彼女に昇格した珍しいタイプの子。
付き合う時も俺がめちゃくちゃ好きになってしまって、Aは付き合いたくないと最後まで言ってたけど俺が食い下がらないから彼女になってくれたという経緯がある。
「毎回毎回、許しちゃう自分が一番嫌い」
Aは毎回許してくれてたけど、我慢の限界と言わんばかりに、それ以上何も話すことなく寝室に入って出てこなくなった。
後悔もしてるし、申し訳ないとも思ってる。
Aが俺にとって一番なのも嘘はない。
「A、ほんとごめん…」
寝室のドア越しに謝っても返事はなくて、入るのも躊躇ってソファーで横になって初めて別々に寝た。
俺が彼氏で楽しいのかな、無理矢理付き合ってるんじゃないかな、そんな不安が付き合ってからも俺の中にはあった。
自分に好意を向けてくれる女の子がいると安心してつい同じ事を繰り返してしまう。
自己肯定感を上げてもらって、あわよくば全てを満たしてもらって、Aが待つ家に帰るとやっぱりAが一番好きだと再確認できて不安がなくなる。
完全に自分本位の負の連鎖。
普通に最低最悪な話。
朝起きて、いつもなら台所に立つAの姿が今日は無い。
冷蔵庫を開けて悩んだ挙句、棚に置いてあった菓子パンにかぶりつく。
自分の朝ご飯すらまともに作れない俺、Aのおかげで生きてる。
「行ってくる」
寝室のドア越しに声をかけて今日は地方ロケへと向かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：珠美 | 作成日時：2023年1月27日 9時
