Chocolate Sling -3-

3 ページ3

.


「家庭の事情…とかなんとか言ってたけどなぁ……北山、お前萩野と仲良かっただろ？萩野から何か聞いてないのか？」




課長の言葉に、耳を疑った。




先月いっぱい･･･つまり、昨日付けで、Aは会社を退職したらしい。




「萩野さん辞めちゃったって…」




「何かあったのかな？」




「でも、あまりにも急すぎない？せめて一言でも声掛けてほしかったよね。」




周りの社員に挨拶もなく、突然の退職だったから 当然皆驚いている。




不穏な空気の中、就業時間になった。




.




仕事の合間に何度も電話を掛けた。




《お客様のお掛けになった番号は…》




番号を変えたのか？




･･･それとも、解約した？




『…っ、』




無機質なコール音の後に続く、機械的な女性の声に じわり、と涙が込み上げる。




何度掛けても 繋がらない電話。




Aのアイコンは灰色になり、"退室しました" と表示されたトーク画面。




送っても、エラーになるメール。




その全てが表すのは、Aが俺を拒否しているという残酷な事実だった。




.




ガチャリ、と重いドアを開く。




"ひろっ、おかえり！"




当たり前だった。




"今日お肉すっごい安かったからさ、ついつい買いすぎちゃったんだよね…"




当たり前だと思っていた。




"ふふ、お腹空いたって顔してる (笑) もうすぐ出来るから待っててね？"




『……なんで、いねぇんだよ…』




当たり前だと、思い込んでいた。




君は俺から離れない。




だって、約束したんだ。




君は俺のものになるって･･･




そして俺は、君のものになるって･･･




"おし、じゃあ約束な？"




"じゃあ 宏光のは私に付けさせて？"




"…ひろが私のものになる約束 "




スーツのポケットに手を入れると、ひんやりとした感触が指先に触れた。




『っ、なんでだよ…！！』




裏切られた、と思った。




心臓が抉られるような痛み、いっそこのまま、死にたいとさえも思った。




この指輪を選んでいる時、君の喜ぶ顔が頭に浮かんで、すごく幸せだったのに･･･




君は、俺との未来を考えていなかった。




.




.




翌々日、俺は後輩を飲みに誘った。




正直、飲みの気分じゃなかったけど。




1人でいるのが無性に怖くて、恐ろしくて。




苦しくて、虚しくて･･･




これが現実逃避だと分かっていても、どうしても受け入れたくなかったんだ。

4→←2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す