Chocolate Sling -2-

10 ページ37

.


玉は あっという間に店に馴染んだ。




ふわふわしててどこか掴めない雰囲気が、特に女の客に受けている。




「裕太、前の店にいた頃はいっぱい連絡先貰って すごい迷惑してたんだって。」




『マジ？どんな店だよ…』




「駅前にあった○○ってとこ。」




『あー…なるほど……チャラチャラした女が二次会とかで使う店だ。』




終電で帰る時とか、よく店の前で騒いでるのを見かけるんだよなぁ。




前はあそこで働いてたのか･･･




『…玉も大変だったんだな。どんな客でも 客は客だし、無下には出来ねぇだろ。』




「いや、そうでもなかったみたい。」




『え？』




「ああ見えて裕太って、自分に害があるって判断した人には容赦ないんだよね。」




『…容赦ないって、』




「最初は絶対に断るし、それでもしつこかったら もうそのお客さんには優しくしない。で、貰った連絡先は 後でビリッビリに破いてゴミ箱にポイ。しかも、すんごい笑顔で。」




そこのオーナーは横尾さんの知り合いで、玉のことは前から聞いていたらしい。




『……すげぇな、』




可愛い顔して やることえげつねぇ･･･




でも、それくらいしないと しつこい奴はどこまでも厄介なんだろうな。




「うちは働きやすいし、お客さんも優しくていい人ばかりで最高だってさ。」




『んはは、そりゃそうだろ。ああゆう店と比べられちゃ困るっつーの (笑)』




そろそろ玉が出勤してくる頃だ。




初日は一応面接がてら早めに来ていたけど、基本バイトは 開店15分前が原則。




「…そういえば、最近来ないね。」




『ん？誰？』




「Aちゃん。」




『あぁ、仕事忙しいって…』




最後に会ったのは先週の火曜･･･




"あのね、明日からまた残業続きになるの。しばらくお店行けないかも…"




仕事なら仕方ない。




"そっか、無理せず頑張れよ？"




なんてことないフリをしてそう言ったけど、しばらくってどれくらい？次はいつ来れる？･･･なんて言葉が頭に浮かんでしまった。




･･･そんなの口に出せねぇだろ。




俺とAは そんな関係じゃない。




初めて会った日からもう何ヶ月も経ってるのに、何も進展していない。




変わったのは、お互いの呼び名だけ。




こうやって店以外での時間を重ねていても、そうゆう雰囲気にはならないわけで･･･




俺からモーションを掛けるきっかけすらも見つからないまま、今に至る。

11→←9

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す