Torenia Fournieri -1-

11 ページ45

.


「っ、…なんで、」




帰る準備をしてる最中…




突然現れた二階堂先輩に、驚きが隠せなくて目を見開いて固まってしまった。




今日提出期限の課題に不備があったことで、さっきまでずっと居残っていた私。




おかげで もう教室には誰もいない。




先輩と2人きり･･･




つい先ほどと全く同じ状況に、緊張からか背筋がスーッと冷たくなるのを感じた。




『……これ、』




手渡されたのは、先ほど私が先輩に向かって投げつけてしまったものだ。




「あ…っ、」




感情が昂って、とんでもない醜態を晒してしまったことに酷く後悔する。




しかも物を投げつけるなんて幼稚なこと･･･




でも、会いに来てくれた。




あんなことがあったのに、まさか わざわざ教室まで来てくれるなんて･･･




たとえこれを突き返す為だとしても、それでも嬉しいと思ってしまう。




それくらい、私はこの人が好きなんだ。




『……遅くない？』




「え？」




『もうとっくに帰ってるかと思った。』




「……提出物があって、」




『…へぇ、そっか。』




普通に会話が出来ていることが不思議だ。




『…字、』




「え？」




『字、綺麗じゃん。』




いつの間にかプリントを手に取っていた二階堂先輩が、目を細めて私を見つめた。




「…っ、」




･････笑って、る？




どうして そんな顔するの。




今までの仏頂面が嘘みたいに、目の前にいる先輩は優しい表情を浮かべている。




『……泣いてる、』




「っ、泣いてません…」




慌てて顔を背ける。




これは･･･ただ、驚いただけだ。




二階堂先輩の笑顔が私に向けられていることに、驚いて 不意に涙が溢れてしまっただけ･･･




『あのさ、これなんだけど…』




「え？………あっ、」




･･･忘れてた。




先輩に謝らないといけない。




勝手に傷付いて 先輩に当たってしまったこと、ちゃんと謝らないと･･･




「…二階堂先輩、」




『ん？』




「あの…さっきは『美味かった。』




･･･え？




「えっと…」




『ふはっ、美味かったって言ったの (笑)』




一瞬、空耳かと思った。




だって･･･美味かったって･････




『特に、ハンバーグ。』




「…食べて、くれたんですか？」




私の問いかけに、はにかみながら頷く先輩。




･･･信じらんない。




だって先輩、手作りとか苦手なんでしょ？

12→←10

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す