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「いや、私の担当はキーボードですよ！」
「はて？
では、我輩が『去年見た』嬢ちゃんの姿はなんじゃったのかのう」
「はいィ！？」
朔間先輩から告げられた思わぬ事実に私の声は裏返った。
心当たりがあるのは去年の初夏に行われた音楽祭。
けして、規模は大きくなく会場も大型ショッピングモールの野外広場で地元のジャズバンド、吹奏楽部、インディーズのロックバンドなどが参加するローカルなイベントだ。
其処に私達も招かれ、バンド演奏をした。
当時所属していた女子軽音部は固定のボーカル担当と云うモノが存在せず、殆んどの部員がボーカル兼担当楽器が出来るように練習をしていた。
そして、音楽祭が行われる当日に本来ボーカルを担当する筈だった先輩が時間内に来られなくなり、キーボード兼コーラス担当をしていた私が先輩が来るまでボーカルを担当する事になった。
幸いキーボード担当は私ともう一人居た為、ぶっつけながら『演奏は』何とかなったが、まさかその時の姿を朔間先輩は見たと言うのだろうか。
「…………居たんですか？見たんですか？聴いたんですか？」
「……少し切ないラブソング」
「ぎゃぁああああっ！」
確信した。
朔間先輩は去年のＭＣまでバッチリ聴いている。
あまりの恥ずかしさに真っ赤になってるであろう顔を隠すように身を丸め、悶え始める私の姿に朔間先輩が喉で笑っているのが解る。
これが魔王からの会心の一撃か。
「うわ〜……朔間先輩えげつな〜い…」
「A先輩、息してますか〜？」
『ドンマイ』の意味を含んで、ひなたかゆうたのどちらかが私の背中を軽く叩く。
別に自分の歌が彼に聴かれていたのが問題では無かった。
問題は私がそのＭＣで緊張のあまり上手く呂律が回らず、噛みまくっていたと言う事と歌詞を間違えて歌っていたと言う事だ。
先輩達や同級生から『急なのによく頑張った』と褒めてくれたが、私からすれば今思い出しても悶絶する程恥ずかしい出来事。
身を丸めたまま顔を上げられない私に乙狩は勿論、流石の晃牙も『大丈夫かよ』と声を掛けてくれたが、大丈夫な訳が無い。
「でも、朔間さんはどうしてそんな事知ってる訳？」
「我輩もあの頃は若かったからのう。
『帰国』した時に気紛れで立ち寄ったんじゃ」
「へぇー」
瀕死な私を余所にのほほんと会話をするUNDEADの二枚看板。
結局、私は店員が羽風先輩の頼んだドリンクを運んで来るまで動く事が出来なかった。
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作者名：ナナシ | 作成日時：2018年4月7日 12時
