レンタル彼女【桃】

episode : 7 ページ9

彼女から返ってきた言葉は , とても簡潔で ,
でも , 俺を困らせるには十分過ぎるものだった .








「 からかわないでくれよ 」







「 からかってなんかないよ 」







「 でも , 」







「 … 私は別に何度でも言えるよ 」








組んでいた足を解き , 笑いながらビールを喉に流していくA .




顔を赤らめているのは俺だけで , 何だか悔しさが残る .

弄ばれているのか , 本心なのか .




きっとこうやって悩む姿も , Aからしたら面白可笑しいものなんだろう .








「 円満に別れた訳でも無いのに , 忘れられないでしょ 」








ほら見てよ , だなんて言ってAが見せてきた携帯には , 俺と撮った写真がホーム画面に設定されていた .


多分だが , 俺がAに告白した日に撮った写真だ .




俺の携帯には , そんな写真残ってないのに .








「 さとみは , どうなの ? 」







「 … 何が 」







「 何がって分かりきってるでしょ

さとみ"も"私のことあれから忘れられて無かったの ? 」








嗚呼 , こういう時何て答えるのが正解なんだろう .

辞書や教科書に載っていない , 模範解答のない問い掛けに
俺は黙って俯くことしか出来なかった .




「 沈黙じゃ分かんないんだけど 」




Aは俺の頭を撫でて , 呆れた様子で自室だった部屋へと戻って行った .




1人になった空間で , 頭を抱える .

どうしてあの時 , 直ぐに「そうだよ」って言葉が出せなかったのか .




俺だって必死に悩んだ .

でも , 俺は「そうだよ」だなんて言える立場にあったのだろうか .




「円満に別れた訳でも無いのに」 , しっかりAは覚えていた .




最後 , あんな態度をとった俺が

「俺もずっとあれからAの事を引き摺っていた」

だなんて言っていいのか .




言ってしまったその先には , 何が待っているのか .




だから , 沈黙してしまった .

でもそれが間違いだとは思ってはいない .




きっとお互い ,

レンタル彼女 と レンタル彼女利用客

の関係の方が幸せに過ごせると思う .




過去みたいにAに辛い思いをさせるくらいなら ,
俺はお金を払ってAとレンタル彼女として会う .








「 … 何て酷い顔してこんなこと考えてんだよ

だっせぇなぁ , 俺 」








鏡に映った顔は , 酷く暗かった .




間違いと思ってなくても , 後悔残ってんなら ,

… そんな顔するくらいなら ,






好きって言えば良かったのに .

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