あの日から ページ1
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事故の日から2週間経って、海斗は漸く普通の個室に移ることができた。薬が合って、錯乱状態になることは減ったものの、フラッシュバックが酷く、急にパニックを起こしてしまうこともある。自分の生活も、まだひとりでは満足にできない状態だ。排泄は時間を決めて誘わなくてはいけないし、食事も自ら食べることはない。もちろんその状態で退院できる筈はなくて、毎回、僕が帰る時に泣いてしまう。だから平日の夜は、海斗を寝かせる時間の少し前に行って、寝かしつけてから家に帰るようにしている。病院のスタッフさんたちは僕の負担を心配してくれたけど、普段僕が寝る時間より随分早いし、身体的な苦労はなかった。仕事が休みの日は早めに病院へ行って、一緒に過ごしている。最近は、病室から出られるようになってきて、調子が良ければ、少し散歩に連れ出すことにしている。もう少し回復してきたら、プログラムに参加して、家や学校に戻るための練習をするらしい。
「海斗、お散歩に行こうか」
体力や筋力が低下して、そして何より気力がなくなってしまって、今までのようにひとりで歩くことができない。体力を戻すために、毎日看護師さんとも行っているのだけれど、食事の量が少ないから体力の戻りは悪い。
「起き上がるよ。せーの」
背中を抱き起こして、スニーカーを履かせて、歩行器を掴んで立たせる。そしてゆっくり隣を歩きながら、病棟の中を一周してベッドに戻る。それだけでも、海斗は疲れてしまって、ぐったりとベッドに沈み込む。
「頑張ったね。足のマッサージしようね」
細すぎる足を温めるようにマッサージすると、少しづつ身体の力が抜けて、海斗は目を閉じる。
「おやすみ」
眠れてよかった、飲み物を買いに行こうと思って引戸を開けると、海斗がビクッと身体を揺らして起き上がる。
「のえる、、っ、、」
「大丈夫だよ海斗、帰らないよ。飲み物買いに行こうと思っただけ」
ベッドサイドに戻ると縋り付くように泣いて、そのまま過呼吸を起こしてしまう。
「海斗、大丈夫だよ」
ナースコールをすると、看護師さんが来てくれて、一緒に背中を摩る。
「ごめんね、びっくりさせちゃったね」
「お薬飲みましょうか。辛いもんね」
用意してきてくれていた頓服を飲ませて、背中を抱いていると少しづつ力を抜く。それでも、僕の服を握りしめる手が緩むことはなかった。
「海斗、大好きだよ。僕はずっと、海斗と一緒にいるからね」
「のえる、、のえる、」
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作者名：イカ | 作成日時：2022年8月28日 23時
