省エネ主義が二人。〈氷菓〉〈折木奉太郎〉 (ページ4)

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開けられたままの窓から、陸上部か何かのかけ声が飛び込んでくる。

そのエネルギー消費を大きい生き方に敬礼。

よく勘違いされるのだが、私はなにかと比較して省エネが優れていると思っているわけではないので、活力のある連中を小馬鹿になどしてはいない。

それは奉太郎も同じようだ。

三階まで上がり、タイル張りの廊下を行く。

大きな脚立を担いだ用務員が通りがかったので軽く頭を下げた。

古典部の部室は特別棟の四階、地学準備室の流用だと教えられた。

移動こそ浪費だと思いながら連絡廊下を渡り、階段を四階まで上がってくれば、地学準備室はすぐそれと知れた。

躊躇いなく横開きのドアに手を掛ければ、硬い手ごたえがある。

当然のことだ、特別教室には鍵がかかっているのが普通だ。

無駄を省く為あらかじめ借りていたキーを奉太郎から受け取り、鍵穴に差込み、捻る。

鍵の開いたドアをスライドさせる。

無人の地学準備室。

西向きの窓から夕陽が見える。

無人の？

いや。

夕暮迫る地学準備室、古典部部室には、先客の姿があったのだ。

その人は教室の窓際にいて、こっちを見ていた。

そこにいたのは女子だった。

黒髪が背まで伸びていて、セーラー服がよく似合っていた。

背は私よりも高くて、多分里志よりも高いだろうと思われた。

私たちの知らない女子生徒だった。

だが彼女は、私たちを見ると微笑んで言ったのだ。

「こんにちは。お二人って古典部だったんですか。乙花さん、折木さん」

奉太郎「・・・誰だ？」

奉太郎は私の前に立ち訊いた。

「わかりませんか？千反田です。千反田える、です」

名乗られても、やはりわからない。

奉太郎は困り顔で私の方を見る。

私は首を横に振って知らないことを伝えた。

『ごめんなさい、全然わからないの』

彼女は＿＿＿千反田さんは微笑んだまま困ったように小首をかしげた。

千反田「乙花さんと折木さんですよね。乙花Aさん。折木奉太郎さん。一年B組の」

私と奉太郎は頷く。

千反田「私、A組なんです」

そう聞いて私は思いだした。

芸術選択科目。

『もしかして音楽の授業で一緒だった？』

私がそう言うと奉太郎も〈なるほど〉という顔をした。

千反田「はい、そうです！」

千反田さんは大きく頷いた。

奉太郎「それで千反田さん。この地学準備室になんの用で？」