【ぶい/ろく】こころ

5 ページ6

「岡田、UNOしよーぜ」

「いいよ」

「よーし今日こそ絶対負かしてやる」

「無理だよ健くん、俺AIだから、人間より強いよ」

「ムカつく！こいつムカつく！鼻へし折ってやる」




剛と健が初等学校から帰ってくると、岡田はその相手で大忙しになる。岡田が二人のめんどうを見てくれてる間に、長野・坂本・井ノ原の三人はプログラムの調整を続ける。三人暮らしで登録されているこの家に、住むのは5人と1人のAI。




「しっかし岡田も、見れば見るほど綺麗だよな」

「あらっ、もしかして褒めてくれてます？」




長野が嬉しそうに口元を緩めながら、目は顕微鏡に向けたまま言った。




「褒めるも褒めるよ。あんな綺麗なの他所で見たことねえもん」

「あらー、何も出ないけど」

「そりゃあこの一体で最優秀賞も国家規定科学者認定も出ますわ」

「ははは。なんなの。きもちわりい」

「長野くんってほんっと勿体無いよね。科学者としての才能もあるし、顔もほら、結構いけてるじゃない」

「ええー？」

「こんな年になってさあ、嫁っこ一人もいなくて！売れ残っちゃってるよ完全に」

「そうかねえー」




夜になり、岡田が剛健と一緒に風呂に入っている間に、坂本が少ない食品で晩飯のメニューをひねり出す。長野はあまり飯を食わず、栄養ドリンクと煙草で研究に没頭する。長野いわく夜の方が集中できるらしいが、今のプログラムに手を付けてからかれこれ七年が経ったので、井ノ原は集中もクソもない、と思っている。




「春はあけぼのようよう白くなりゆくやまぎわ・・・」

「お、健ちゃん、古文をしたためるなんてどうしちゃったのさ」

「明日暗唱テストなんだよ。ヤッバイ、この次忘れちゃった。ねえ岡田ぁ」

「少し明かりて紫だちたる雲の細くたなびきたる」

「それそれ。サンキュー」

「お前、岡田使うなよ」




長野が作り出した世界一美しいAIロボットの岡田は、元々は剛健が拾ってきた脳死した赤ん坊であった。長野は岡田の遺伝子を再構築し、脳の代わりにAIを搭載した。そのため岡田は風呂にも入るし飯も食う。汗もかくし髪も伸びる。ただ脳機能の代わりを果たすのがAIのため、たったひとつ、『こころ』だけを持っていない。





「長野くん、お風呂あいたよ」

「あー、うん今行く」




長野は岡田の『こころ』を作り続けている。助成金が尽きても、外で戦争がおっ始まっても、生きている限り長野は岡田の『こころ』を作り続けるのだ。

6→←4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す