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「下町のながのAI研究所で働いている岡田です。毎日鐘の音が聞こえるから、どんな人間がいるのか調べに来ました」
岡田は端的に言った。男は「あはは」と笑い、「どうぞ中へ入って。お客さんなんてめったに来ないから、何にもないけど」と言った。
岡田は教会の裏にある小さな小屋へ案内された。扉を開けると広間に簡素なベッド、小さな炊事場と暖炉が置いてあり、窓がひとつだけ付いている、まるでおとぎ話に出てくるような変わった部屋が現れた。
「オレここに住んでんすよ。汚くて申し訳ないっす」
「いえ・・・」
「オレ岸っていいます。ここでずっと暮らしてて、毎日鐘鳴らして時間が分からなくならないようにしてんす。うちAIもいないから、これやんないと、時間感覚なくなっちゃうんで」
岸は汚れた頬をきゅっと上げ、愛らしい顔で笑った。
「岸くんの家族はあの日亡くなってしまったの?」
「そうっすそうっす。シェルターがぶっ壊れて、母さんも父さんも死にました。羊用のシェルターだけはなぜか無事で、オレその日はたまたま羊と一緒に隠れてたんで、生き長らえたんす」
岸はぼこぼこにへこんだやかんで湯を沸かした。納戸を暫く漁り、「あったあった」と古い茶葉の缶を出してきた。
「あ、AIって飲み食いしないんだっけ?茶要ります?」
「飲めます。俺、元々人間だったから」
「元人間・・・?」
岸は眉間に皺を寄せた。何かを考える仕草をした。
「・・・あれ、ながの研究所って言いました?」
「はい」
「・・・下町の?」
岸は何かを知っているような顔をして、そのまま首を振りながら「ダメだ、思い出せない」と目を閉じた。
「なんか前に、天才ロボット科学者が下町に住んでるって、この辺で話題になったんすよ。オレがまだガキの時・・・脳死した元人間にAI脳をぶちこんで・・・でもそれきりAIの研究はやめてしまって・・・」
「税金泥棒っていわれた?」
岸は目を丸くし「そうそう!」と叫んだ後、「あっ、すんません」としおらしく肩を竦めた。
「長野くんのこと知ってるの?」
岡田は岸の目を見た。深い蒼色に輝く瞳で、岸は答えた。
「会ったことあります。うちに来たんです。確か、オレがガキの時だったんで・・・十五年くらい前」
「長野くんが・・・」
岡田はごくりと唾を飲んだ。
羊たちが小屋の外でメエと鳴いた。
「長野くんが、ここへ来たことがあるの?」
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Mao(プロフ) - ふきさん» そちらも被災地だったのですね;< お互いがんばりましょう;< (2018年9月13日 2時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 更新で、嬉しく飛んできたのですが!日常生活は、大丈夫なのでしょうか?お見舞申し上げます。御家族、皆様お怪我ありませんか?こちらは関西なので土砂災害が酷い地域もありますが、どうぞ無理せずお過ごし下さい。 (2018年9月10日 1時) (レス) id: c8a9c28ea5 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - 亮真さん» ありがとうございます!キムチは放送後すぐ書きました笑 書かなければならない気がして...笑 (2018年9月10日 1時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
亮真 - 一気に読ませていただきました!めちゃくちゃ面白いです。個人的に。健くんのキムチのシーンが忘れられません笑楽しく読ませていただきました!これからも頑張ってください! (2018年9月7日 22時) (レス) id: 01b213f1ed (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - ぴとで☆さん» 古い曲ですが名曲です!コメントありがとうございます。遅筆で申し訳ないです! (2018年8月10日 1時) (レス) id: a30f7359e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mao | 作成日時:2018年8月3日 21時