壁の穴から (ybin) 2

涼介の苦悩 1 ページ21

〈涼介の苦悩 1〉


「…あーーっ！もうぅぅっ！！」


畳に寝そべったまま、拳をにぎって大声で叫んでみる。


散らばった原稿用紙。

もう、いっそこの紙ゴミたちに埋もれて死んでしまいたい。


もう、俺なんかこの世から消えちゃっても誰も困らないよ…。




全然、書けない。


〆切はとうに過ぎた。


こんな事は、まあ、よくあること。
毎回絶望して、でも何とか絞り出すように文章を紡ぐ。
それでもダメなら、やぶちゃんのとこ行って話を聴いてもらって、そうすると、何だか絡まった糸がほどけていくように、体の何処かに詰まってた言葉がぽつりぽつりと出てくる。


そんな時に、時々ふと思うんだ。

……俺の手を、体を通して出てくるこの言葉は、ほんとはやぶちゃんの言葉なんじゃないかって。


やぶちゃんが全く文を書けなくなるのと、俺が何とかそれなりのものを産み出せるようになったのは、ほとんど同時期だった。

やぶちゃんが書けなくて苦しんでる横で、俺は沢山の大人たちに誉められて、天狗になってた。
自分の実力もわきまえずに…。


もしかしたら、俺から言葉が出てこなくなったら、またやぶちゃんが書けるようになるんじゃないか……？
あの、やぶちゃんの優しい言葉たちが、やぶちゃんの中から出られずに閉じ込められてるのは、ひょっとして俺のせいなんじゃないだろうか、なんて考えたり。


もしも、もしも本当にそうだったらさ。

才能の無い俺なんかが無理矢理捻り出して書くものよりも、やぶちゃんの天才的な作品が世に出る事の方が、絶対的に価値があるよ…。

俺自身、やぶちゃんの言葉が再び還ってくる事を心から待ち望んでいるんだから。







ピンポーン…

突然の呼び鈴の音に体を跳ねあげる。



ピンポーン…

続けざまにもう一回。


…また、ゆうてぃだろうか。


ゆうてぃ。
ごめん、俺、お前の顔を今は見れない。
弱ってるこの時に、好きな人と気持ちがすれ違い続けるのが辛い。

俺が我が儘なんだってわかってる。
俺の思う通りにゆうてぃが行動してくれないから拗ねてるなんて、自分勝手にもほどがある。



ピンポーン…



俺の方から閉ざした扉を、こうやって何とか開こうとアプローチしてくれる恋人に、俺はいつまでも酷い態度をとってる。

こんな俺にいっそ愛想をつかして欲しい、なんて、優しいゆうてぃが、そのうち怒り出すのを待ってるんだ。

最低だよ…。






「いい加減にしろーー！涼介開けろーーー！！」


え？

ゆうてぃじゃない？

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