〜誰がために〜 (×in)

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部屋に戻ると、雰囲気は一見和やかだった。


ゆうとが一生懸命にメンバーを盛り上げてくれていた。


ゆうと、大人になったな…。

ふとそんな事を思って、自分の事を振り返って、俺は何か変わっただろうかと考える。

…うん、変わったとは思う。


でも、それは歳を取ったからではなくて、伊野尾くんと出会ったから。
伊野尾くんを好きになったから。


それまで、自分の事が第一だった。
誰と恋をしていても。

伊野尾くんが俺を変えた。


自分の立場よりも、何よりも、伊野尾くんの事が大切なんだ。


だから。



もう、言わなきゃいけない。



「薮くん」



結果がどうなったとしても。




「話があるんだ」




もう、

はっきりさせようか。








本当は知ってるよ。


わかってたよ。



薮くんの事とは別に、
伊野尾くんに俺以外の誰かがいることだって。



俺は、考えるの苦手だから。
面倒なことも嫌いだし。


でもさ、

わかっちゃうんだよ。
わかりたくなくても。

考えなくても感じられる。

伊野尾くんのことなら。

…知らなくてもいいことまで。




俺は、伊野尾くんの言葉だけを信じていたかった。


伊野尾くんが俺を好きだと言ってくれるなら、

伊野尾くんが俺の側にいてくれるなら、


もう、それだけで良かった。



嘘があっても、

秘密があっても、

俺の伊野尾くんでいてくれるなら、それだけで良かったんだ。


伊野尾くんの全部を欲しいなんて、全てが知りたいなんて、そんなつもりはなかったんだ。







ゆうとが笑う。


山田が口を開く。


伊野尾くんが戻ってくる。


…流れていく時間が、まるで夢の中のようで。







収録の間、震え続ける伊野尾くんの肩を思わず抱いた。


…何を怖がってるの。伊野尾くん。


俺は、何があっても、伊野尾くんから離れない。

何があっても、伊野尾くんの事が好きなんだ。

でも、それは、伊野尾くんもわかっていること。




だから。





怖がってるのは、俺が離れていく事じゃないんだね。

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