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「お前どうやって帰んの?」
「あ、地下鉄です」
1階に向かうエレベーターの中で最寄り駅を伝えると、遠くね?と言われた。
わたしの家は、直線距離だと近いけど、電車だと直通の路線が無く、余計に時間がかかる。
いつもはバスを使っているけど、終バスの時間が過ぎていたため、電車を使うしかない。
「送るわ。俺、車だから」
「え、そんな、悪いんでいいです」
「んだよ、俺の車に乗りたくねぇのか」
北山さんは、そんなことを言われたら乗るしかないことをよくわかった上で言っているようで、なんだか優しいのか俺様なのかわからない。
結局北山さんには勝てず、車に乗り込むと、安全運転で送るから、と言われた。
ハンドルを握って、小さくハミングする北山さんはとても絵になっている。
仕事だけじゃなくて、運転も上手いし、歌まで上手いんだななんて考えていると、北山さんと目があって、思わず逸らしてしまった。
「腹減ったなー」
「そうですね」
「…聞いてる?」
「何がですか?」
「腹減ったな、って言ったんだけど」
「そうですねって言いましたけど…」
わたしがあんまりにも頭にハテナを浮かべていたらしく、北山さんは笑って、飯行かない?って言ってる、と言った。ずるい、その笑顔は、断れない。
「もちろん一木の奢りだよな?」
明らかに冗談だとわかるトーンで北山さんは言うけど、わたしは何か北山さんに返さなければならない。
今日1日で北山さんにはとても恩ができた。
わたしは今日から北山さんに足を向けて寝られないし、明日から社内で北山さんが困っていたら、わたしにできることは何だってするつもりだ。
「あの、わたし今日、あんまりお金持ってなくて…」
「嘘だよ、」
「だから、もし良ければお肉食べませんか」
「……は?」
「わたし、今日いいお肉持ってるんです」
信号待ちで止まっている車内で、北山さんは訳がわからないって顔をしてわたしを見た。
さっきとは逆の状況で、おかしくなって笑ってしまう。
わたしが奮発して買ったいいお肉が北山さんへのお礼になるなら、もはやそのために買ったと思える。
「お肉、すきですか?」
「すきに決まってる」
「じゃあ差し上げます。今日賞味期限なので、焼くなり煮るなり、食べちゃってください」
「いや、俺料理出来ねぇよ」
失敗したかな、と思い、別の案を考えていると、北山さんがわたしを見て、口を開いた。
「一木、作ってよ」
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作者名:なー | 作成日時:2021年10月2日 15時