【実.況.者】君のその笑顔で、俺は幸せになれるんだ。【キ.ヨ】

12.雨音 ページ12

キヨside




なんか俺、最近運が良すぎるんじゃないだろうか。




「…やみそうにないね」




いつもより近い距離にいるAちゃんの髪が少しだけ濡れていて色っぽい。




「キヨくんと一緒にこの雨見てると、」

「おう」




雨は強くなったり、弱くなったりでさっきからずっと気まぐれだ。

この天気もこの情景もあの時と同じ。




「初めてキヨくんに会った時のこと思い出すね」




Aちゃんはそう言って綺麗に笑った。

彼女の笑顔と、あの時のことを覚えていてくれていた嬉しさに思わず頰が緩む。




「そうだな」




雨の音が響くのと同時に、俺はこの人のことが今も、きっとこれからもずっと好きなままなんだろうなと改めてそう思う。

前にAちゃんが言っていた。

保育士になるために四年制の大学に通って勉強しながらバイトしてるって。

それを聞いた時、絶対似合うなぁって思ったし、心から応援したいと思った。

欲を言えば、もっと近い存在で彼女のことを支えたい。




「あ、キヨくん。雨やんだよ」

「にわか雨だったな」

「うん。…私の家このほんとに近くだから今日はここまでで大丈夫だよ」

「ん」

「またね、キヨくん」

「…じゃあな、気をつけろよ」




もう離れてしまうことがすげぇ惜しかったけど、それでもなんだか今日はすごい幸せな気分だった。




「っ、やっぱ寒ぃな」




道民だから寒さには強いほうだけど、秋の雨があがった直後はまだ流石に寒い。

風が勢いよく吹いて、コートから微かにAちゃんのほんのり甘い匂いがした。

13.小さな疑問→←11.常連さん（仮）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す