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「へー勇利の滑走1番最初なんだー」
いいね。と私は笑いながら宿泊先のホテルのレストランでヴィクトルと勇利の三人で夕食を囲んでいる。
「あれだけ練習したから大丈夫だよ」
どこか気楽な私とヴィクトルはビールを飲みながら、頑張ってきた彼を安心させるように楽観主義の私達は勇利を励ます。
そんな私たちのと反比例するように勇利は「うん……」と静かに返事をして黙々と夕食を食べる。
それを見た私とヴィクトルは2人で顔を合わせて肩をすくめた。
「まぁ、そんなに気負わず気楽に行こうよ」
そういう私はお酒を薦めたが「本番前はお酒控えてるんで」とキッパリ断られた。
こんな調子で本当に大丈夫なんだろうか。
だんまりの勇利を見て私はお酒をあおった。
本番前の練習が始まる前に勇利とヴィクトルは囲み取材をされている。
私は特に関係ないので近くで缶コーヒーをすすっていると、取材が終わったヴィクトルに声をかけられる。
「Aー俺と勇利は先にリンク行ってるからねー」
「はーい」
リンク場へ入って行く二人を目で追ってから改めて缶に目線をやると誰かに話しかけられた。
「すみません○○新聞のものですが取材いいですか？」
ヴィクトルがコーチになると衣装を作った私にまで取材がくるのか。
「それほど立派なコトは言えませんよ」
私は笑いながら缶を近くのゴミ箱に捨てて新聞記者に向きなおる。
断っても良いのかもしれないけど、勇利やヴィクトルの印象を悪くするのも良くない。
それに野球選手だってファンサービスするし、私は私で聞かれたことに素直に答えるだけだ。
何故勇利の衣装を作ろうと思ったのか、衣装に気を使った箇所は？などいくつかの質問を淡々と記者の質問に答え終え、インタビューして下さった方にお辞儀をすればさっさとリンクに入る。
入り口から離れた場所にヴィクトルが立っていたのでそこに向かって軽く駆け足で向かう。
「遅かったね」
そんなにコーヒー熱かったの？とからかわれる私だが、インタビューに応じてたなんて言うようなガラでもないので、適当に「そうだよ」と返事をした。
ああ、本番の時間が近づいてきている。
滑るのは勇利なのにこの緊張感はなんなのだろう。
というより、私が一緒に練習した訳でもないのに、勇利やヴィクトルより緊張するなんておかしな話だ。
あぁ、コーヒー飲みたくなってきた……。
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作者名：かなぁ | 作成日時：2016年11月25日 14時
