嘘 ページ1
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初めて彼女と出会ったのは桜舞う春の日であった。
麗らかな陽射しに人は皆浮き足立ち、同時に止まらないくしゃみに悩まされる季節。よく出会いと別れの季節だなどと表現されるのが『春』だが、あの日の小生にとっても春はまさに出会いの季節であったと云えるだろう。
小生はいつものように道ゆく人々の人生に思いを馳せ、想像に創造を重ねながら歩いていた。
そのような普段となんら変わりのない日常に、突如として現れたのが彼女という存在であったのだが。
「あ、あの！小説家の夢野幻太郎先生ですか！？」
運がいいのか悪いのか、背後からその声が投げかけられたのは丁度人混みが途切れた瞬間だった。
震える声音から察するに、憧れの作家先生に勇気を振り絞ってようやく話しかけることのできた幼気な女人であることはほぼ間違いない。小説家としては、愛すべき読者に対しこの状況で無視などという行為をするのは憚られる。
まあ仮に面倒な輩であったとしても、適当な嘘を云って人違いを装えばいいのだ。小生はデタラメな作り話をすることにかけては一級品だと自負している。
そう結論づけて振り向いた先に立っていたのは、いかにも女学生といった風貌のかわいらしいお嬢さんだった。
「はて、小生に何用で？あんまりよく聞こえなかったものですから、もう一度言っていただけます？」
「あっ、す、すみません、声が小さくて…！ええと、その、小説家の夢野幻太郎先生ですか？」
ぺこぺこと頭を下げてから再び問いかけてくる姿は、まるで親から餌を貰おうと囀る雛鳥のようである。
彼女の声は小さいどころか、むしろ小生はあれほどまでに声を張り上げる女人は見たことがないほどだったのだが、その必死な様子に思わず笑みが溢れたのは事実だった。
悪戯心ゆえではない。込めたのは敬愛の念だ。
「私がかい？人違いじゃなかろうか？」
それは、小生が彼女に向けて初めてついた嘘だった。
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なぎさ(プロフ) - いちごって美味しいよねさん» 初めまして、コメントありがとうございます。夢野先生はどのような文章を書くのかとひたすら考えながら書いたので、そう言っていただけて嬉しいです！ (2019年2月20日 10時) (
レス) id: 2a6bd4d84b (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね - とっても面白かったです！流れる様に自然に紡がれている文章が、自然に幻太郎さんを思い起こさせてくれました！！またなぎささんの書く幻太郎さんに会いたいです(*^^*) (2019年1月10日 1時) (レス) id: e4cb51c86f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なぎさ | 作成日時：2018年11月27日 17時
