雪と人 ページ37
その叫びに夜ト様の言葉を思い出す。
"「そういう子供は、俺達がきちんと、大人にしてやらねぇと。」"
「(はい、夜ト様。)」
ぼろぼろの神様を抱き抱える。虚ろな目が此方を見た。祈るようにその体に頬を寄せる。
「貴方じゃないと、あの子は救えないんです。」
僅かに瞳に灯った光を私は見逃さない。
「、くそ!」
「っ!」
「もう、」
体に刻み込まれた雪の名が消えそうだ。
「……名前を呼んでやらねぇと。あっちにいっちまう。」
上手く声が出ないのか震えた手を伸ばす。
「雪音くん、妖になんかならないで、!」
ひよりさんの声を、最大の好機とした。
「夜ト様、貴方の言葉を伝えて下さい!っ躊躇わないで!」
背中を叩く。流れ込んでくるヤスみに思わず呻き声が漏れた。
これは貴方と私の選んだ決断だ。
「雪音、お前には人の名を授けた。だから、っだから、人として生きろ!生きるんだ雪音!!」
ほろりと、あふれた。
「ごめんなさい。」
雪の名が元に戻った。
ぼろぼろと泣きじゃくって、雪音くんは謝り続けている。
「よか、った。」
私も涙があふれた。小福ちゃんがぎょっとする。
「Aちゃん大丈夫?!」
「、大丈夫。」
ペットボトルに汲んで持っていた清水を体にかけた。相も変わらず激痛が走る。小福ちゃんはずっと背中を擦ってくれていた。
「雪音くん、戻ってきてくれてありがとう。」
腕の中に収まった雪音くんを抱き締めてまた涙をこぼす。
「あちゃー、Aちゃん泣いてるねえ。」
苦笑した小福ちゃんに夜ト様が笑った。
「Aがようやく自分の感情を出せたんだ。何はともあれ、良かった、っ。」
「!夜ト!」
ふらりと倒れこんだ夜ト様に雪音くんもひよりさんも駆け出した。空っぽになってしまった腕の中は空虚で、充分だった。
「(やっとこれで、夜ト様は幸せになれる。)」
真喩ちゃんにも笑われて、大黒さんには撫でられて、兆麻さんには抱き締められた。
「、?」
「あら大胆。」
「、この人意識飛びかけてます。」
慌てて抱き上げれば申し訳なさそうな声がする。今私がここにいるのも彼等のお陰だ。
「真喩ちゃん、大黒さん、兆麻さん、本当にありがとうございました。」
手に入れた平穏。それは誰かの優しさの上にようやく成り立っているものだった。
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まチョコ - 上手すぎやろ。喋り方までそっくり。面白いし感動した。 (2021年9月1日 18時) (レス) id: 310d4b66e7 (このIDを非表示/違反報告)
琉那(プロフ) - めっちゃ面白いです (2019年9月30日 21時) (レス) id: 60dcb24f8e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜狐 | 作成日時:2019年8月24日 23時