【ノラガミ】妖少女は夢を見る (ページ27)

今日:2 hit、昨日:12 hit、合計:50,752 hit

嘘が上手なページ27

雪音くんは人になれない事実を噛み締め始めていた。

「俺は人に見えていないから。」

お店の棚に置いてあったスケボーを勝手に乗りこなす小さな姿はまるで世界に抗っているようで痛々しい。

「それじゃあ泥棒と同じだよ。」

ひよりさんに叱られる。雪音くんは一人で店を飛び出していった。

「……ごめんね、雪音くん。」

夕焼けのような瞳が苦しげに歪んだ。
私はどうしても追いかけられなかった。

「雪音の面倒をちゃんと見てるんだろうな。」

顔色の悪さを隠すように下を向いた夜ト様がひよりさんに問いかけた。主と神器は一心同体。今この時も雪音くんに魔がさしているのだと、痛感する。

「神器は元人間だ。人間は罪を犯す。恨み、恐れ、妬み、焦り、悲しみ、欲望、それらに魔がさす。その罪は苦痛となり、神器を通して俺たちが学ぶ。善と、悪を。」

静けさを称えた瞳が突き刺すようにひよりさんに注がれる。

麗しい私の神様は、高らかに宣言した。
私には何となくこの先が分かっている。

「勘違いしているようだから教えてやる。善悪は人が決めるもので、神そのものにそれらはない。つまり、神は何をしてもいい。何者を傷つけようが、殺めようが誰も裁けやしないんだよ。いずれ雪音にも、俺が裁きを下してやる。」

嘘が上手な神様に、ひよりさんはさっと青ざめて走り去った。きっと雪音くんを探しに行ってくれたのだろう。

「夜ト様、少し休みましょう。」
「……ああ。」

降りてきた夜ト様にペットボトルのお茶を差し出して青白い額に手を押し付ける。やめろ、と言われたが決してその手を離さなかった。

「雪音くんを、人として扱ってあげたいのですね。」

「……あいつの我儘は愛情確認みたいなもんだ。どの範囲なら許してもらえるか、こんなことをしても側にいてくれるか、ってな。そういう子供は、俺達がきちんと、大人にしてやらねぇと。」

苦しそうに笑った夜ト様の手を泣きそうになって強く握る。どうかこの人が駄目になる前に全てが解決しますように。

引き受けたヤスみの痛みが気を失ってしまいそうな程に、強くなっていく。